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都市部から地方私鉄に再就職 さまざまな譲渡車両たち

2020年4月28日(火) 鉄道コムスタッフ

18メートル?20メートル? 人気の秘訣は「長さ」

20メートル級車両が長編成を組んで走る都市部の路線と異なり、地方の私鉄路線では設備も一回り小さいことがあり、車両も18メートル級までしか入線できない場合があります。そのような路線で大きな車体の中古車両を導入すると、車体と電柱などの設備が接触してしまう危険性が。また、わずかながら編成長が長くなるため、駅ホームや車庫の長さが足りなくなる恐れもあります。

もちろん設備を改良すれば対応は可能ですが、それでは投資額が膨らんでしまいます。そのため、地方の私鉄が求める中古車両は、18メートル級の比較的小型な車両が人気が高くなっています。

東急電鉄は、運営するほとんどの路線が20メートル級対応ですが、池上線と東急多摩川線の2路線では、18メートル級車両を運行しています。そのため、この2路線で活躍していた車両は、中古車両として大人気。

先の2線のほか、かつては東横線でも活躍していた1000系は、上田電鉄や福島交通など4社に譲渡。先述の養老線管理機構へ譲渡された7700系は、車体は製造から約50年が経過していますが、腐食しないオールステンレス車体であることに加え、床下機器は製造から約30年ということもあり、今後30年程度の活躍が見込まれています。

上田電鉄の1000系。東急から譲渡された18メートル級車両です
上田電鉄の1000系。東急から譲渡された18メートル級車両です

東急線で2000年まで活躍していた18メートル級の初代7000系は、秩父鉄道など5社へ譲渡されました。このうち、弘南鉄道、北陸鉄道、水間鉄道へ譲渡された車両は、今でも現役で営業運転を続けています。同じく2000年に営業運転を終了した7200系も、上田交通(当時)と豊橋鉄道、十和田観光電鉄へ譲渡。現在は、豊橋鉄道、そして十和田観光電鉄からさらに譲受した大井川鐵道が、営業運転に使用しています。

京王井の頭線で2011年まで活躍した3000系は、同線最後の18メートル級車両。こちらは北陸鉄道、上毛電気鉄道、岳南鉄道(当時)、松本電気鉄道(当時)、伊予鉄道へ譲渡され、現在も各社で活躍が続いています。

また、1996年に営業運転を終了し、京王線最後の18メートル級車両となった初代5000系も、譲渡車両として大人気でした。伊予鉄道、富士急行、一畑鉄道(当時)、高松琴平電気鉄道、わたらせ渓谷鐵道へ譲渡され、現在は再譲渡先の銚子電気鉄道、岳南電車を加えた計7社で使用されています。

岳南電車の9000形(左)と8000形(右)。どちらも元京王の車両です
岳南電車の9000形(左)と8000形(右)。どちらも元京王の車両です

近年では、東京メトロ日比谷線で活躍していた03系が人気。熊本電気鉄道が2019年に導入したほか、長野電鉄でも3両編成2本を導入する予定。北陸鉄道でも、2両編成2本を導入する予定だと報道されています。

東京メトロ日比谷線で活躍した03系。一部車両が長野電鉄などに譲渡されています
東京メトロ日比谷線で活躍した03系。一部車両が長野電鉄などに譲渡されています

一方、JRや首都圏の私鉄が主流とする20メートル級車両は、かつては譲渡された例は多くありませんでした。

京王3000系と同時期に廃車が進められていた京王6000系は、20メートル級車両だったということもあってか、車体の譲渡例は皆無。3000系の改造車である岳南鉄道8000形に運転台が使用されるという、部品単位での使用に留まりました。2008年に引退した東急8000系も、7000系と同じオールステンレス製車体ながら、国内での譲渡例は伊豆急行のみとなりました。

ただし、近年ではこの傾向に変化が見られます。2019年まで東急線で活躍していた、20メートル級の8090系・8590系は、秩父鉄道と富山地方鉄道へ譲渡されています。同じく東急の20メートル級車両である8500系は、長野電鉄、秩父鉄道などに譲渡例が。JRからも、京葉線などで活躍していた205系が富士急行に譲渡され、2012年に営業運転を開始しています。これら20メートル級車両の譲受事業者は、20メートル級車両が直通してくる・していた路線で、駅や線路の設備には問題がなかったため、導入が可能だったようです。

18メートル級の1000形・1200形(左)を使用してきた富士急行ですが、同形式の置き換えには、元205系で20メートル級の6000系(右)を導入しています
18メートル級の1000形・1200形(左)を使用してきた富士急行ですが、同形式の置き換えには、元205系で20メートル級の6000系(右)を導入しています

改造された中古車両たち

譲渡された車両の多くは、譲渡先の路線の状況にあわせて改造されています。

路線の需要にあわせて、編成は2両編成などに組み換え。中間車に運転台を設置し、先頭車に改造することもあります。譲渡元と譲渡先で線路の幅が異なる場合には、台車を交換します。床下機器を新品に交換することも。制御装置をVVVFインバータ方式のものに交換し、省エネ性能を高める事業者もいくつか見られます。このほか、無線設備や保安装置など、導入路線で必要となる装備を搭載していきます。

大胆な改造を伴った例もあります。富山地方鉄道の16010形の車体は、元は西武鉄道の5000系「レッドアロー」のものです。しかし、西武鉄道は5000系を廃車する際、機器類は10000系「ニューレッドアロー」に流用する方針を立てていました。そのため、富山地方鉄道では5000系の車体のみを譲受。制御装置や台車、モーターはJR九州の485系から、運転台のマスコンやブレーキ弁は京急旧1000形から、といった形で、多数の廃車発生品を組み合わせた形となりました。

富山地方鉄道の16010形。車体は元西武鉄道5000系のものですが、足回りなどは他形式からの流用です
富山地方鉄道の16010形。車体は元西武鉄道5000系のものですが、足回りなどは他形式からの流用です

また、京王の初代5000系のうち、わたらせ渓谷鐵道へ譲渡された2両は、電車ではなく客車に改造。側面を大きく切り開き、トロッコ用車両としました。このわ99形は、現在もトロッコ列車「トロッコわたらせ渓谷号」に使用されています。

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