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スピードアップと乗り心地の向上を重ねてきた、東海道・山陽新幹線「のぞみ」30年の歩み

2022年3月14日(月) フォトライター 栗原景

「ペガサス」になっていたかも? 愛称は「のぞみ」に

こうして1990年春に完成したのが、初代「のぞみ」用車両となる300系量産先行車です。約2年にわたる試験走行ののち、1992年3月のダイヤ改正から営業運転を開始することが決まりました。

初代「のぞみ」用300系の量産先行車(左)
初代「のぞみ」用300系の量産先行車(左)

デビューが見えてきた「スーパーひかり」。しかし、新型車両は新世代の標準となる車両です。「”スーパー”な”ひかり”」ではなく、新しい愛称が求められました。

JR東海は、1991年7月から、新愛称の検討を開始します。コンセプトは、「21世紀をにらんだ未来指向性のもの」「夢をあたえるもの」「日本を代表するのにふさわしいもの」。検討された案は56ジャンル2679種類に及び、その中から「あすか」「エース」「きぼう」「コスモ」「すばる」「たいよう」「つばめ」「にっぽん」「ペガサス」「みらい」など20種類の最終候補に絞られました。

ここから、須田寛社長(当時)をはじめとするJR東海社員5名、阿川佐和子(エッセイスト)、斉藤茂太(作家、日本旅行作家協会会長)、牧野登(三菱総研相談役)の3名から成る「300系愛称選考会」が検討を加え、1991年11月に「のぞみ」と決定しました。これは、阿川佐和子さんが、父親で鉄道好きとして知られた阿川弘之さんの「日本を代表する列車は大和言葉であるべき」という発言を伝えたことがきっかけで、「きぼう(希望)」を大和言葉である「のぞみ」とすることで意見が一致したと言われています。

500系が東京〜博多間5時間切りを達成

1992年3月14日、東京〜新大阪間を2時間30分で結ぶ300系「のぞみ」がデビューを果たしました。座席は、1972年3月の山陽新幹線岡山開業以来、20年ぶりとなる全車指定。東京〜新大阪間の特急料金は「ひかり」の5140円に対し「のぞみ」は6090円と、約2割増しに設定されました。

1992年3月14日に運行を開始した「のぞみ」(画像提供:JR東海)
1992年3月14日に運行を開始した「のぞみ」(画像提供:JR東海)

東京駅6時発の下り「のぞみ301号」に、名古屋駅と京都駅を通過するダイヤが設定されたのも初めての試みです。ただ、特に名古屋駅の通過は「名古屋飛ばし」として中部地方の人々から批判されます。実際には、名古屋駅も京都駅も大きく減速しての通過で、所要時間への影響はそれほど大きくはありませんでした。この名古屋・京都通過は、1997年11月に終了しています。

翌1993年3月18日のダイヤ改正からは、東京〜広島・博多間に300系「のぞみ」が日中1時間間隔で運転を開始し、東京〜博多間は最速5時間3分で結ばれました。

1997年3月22日、JR西日本が独自に開発した500系電車が、山陽新幹線で「のぞみ」としてデビューしました。この電車は、航空機とのシェア争いが一層激しい大阪〜福岡間の競争力を高めるために開発された車両で、山陽新幹線で初めて最高時速300キロ運転を達成しました。六角形を蜂の巣のように隙間なく敷き詰めたアルミハニカム材などによって、更なる軽量化を実現。空力性能を向上させるため、まるで生物のような円形の車体を採用し、それまでの鉄道車両のイメージを大きく変えました。

JR西日本が開発した500系
JR西日本が開発した500系

新大阪〜博多間を2時間17分で結んだ500系「のぞみ」は、同年11月29日改正から東海道新幹線にも進出します。カーブが急な東海道新幹線内では300系と同じ時速270キロ運転となりますが、東京〜博多間は5時間を切る最速4時間49分で運行されました。

居住性を向上させた標準車両700系

こうして、東海道・山陽新幹線に新しい時代を拓いた「のぞみ」でしたが、300系と500系にはまだまだ弱点がありました。それは居住性です。300系は軽量化に徹するあまり、床下からの騒音や揺れ、座席のクッションなどに難点を抱えていましたし、500系も、空力性能を突き詰めた結果客室に圧迫感がありました。また、どちらの車両も後方の車両は揺れが大きくなる問題がありました。先頭に当たった空気が車体側面に流れて乱気流となり、後方へ行くに従い車体を不規則に揺らしたのです。

これらの弱点を解消し、居住性の向上と山陽新幹線でのスピードアップを目的に開発された車両が700系です。JR東海とJR西日本の共同開発により、1999年7月1日に営業運転を開始しました。

JR東海とJR西日本の共同開発で生まれた700系
JR東海とJR西日本の共同開発で生まれた700系

700系の特徴は、ファンから「カモノハシノーズ」と呼ばれた「エアロストリーム形状」と呼ばれた特徴的な先頭形状です。300系や500系のように、ノーズを単純な流線形とするのではなく、車体にぶつかった空気を無理なく編成後方に誘導するよう工夫されました。

先頭車とパンタグラフ搭載車、それにグリーン車には、車体の揺れを打ち消すセミアクティブ制振制御システムを搭載。また高速走行時に発生する横揺れを抑えるアンチヨーダンパは全車に装備され、乗り心地を劇的に改善しました。床下機器類も小型軽量化が進んだ結果重量に余裕が生まれ、客室設備や防音設備も改善されて居住性が向上したのです。

また、座席数と座席配置は300系と同じ1323席とされ、もし車両故障などで編成が変更されても問題なく運用できるようになりました。

700系の車内。座席配置は300系と共通とされた
700系の車内。座席配置は300系と共通とされた

700系は、その個性的な先頭デザインがファンの間では賛否両論を巻き起こし、また山陽新幹線では500系よりも遅い時速285キロ運転となりましたが、利用者から高い評価を得て東海道・山陽新幹線の標準型車両となりました。現在主力のN700AやN700Sも、この700系の改良型と言えます。

なお、乗り心地に課題のあった300系も、2004年以降、700系と同じセミアクティブ制振制御システムとアンチヨーダンパを搭載する改造工事を受けて、乗り心地が改善しています。

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