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助川康史の「鉄道写真なんでもゼミナール」

秋の鉄道風景写真は「逆光がベスト」!? 紅葉や黄金色の田園風景、中秋の名月とともに駆ける鉄道の写真撮影方法は

2023年9月3日(日) 鉄道カメラマン 助川康史

山々が美しく彩る秋到来!準備万端で撮影に挑もう!!

前回は、ニコンから発売された「Z 8」を緊急特番的にご紹介しましたが、いかがだったでしょうか。

「記録するのはフィルムだから、良いレンズを選べばカメラは何でも良い」と言われたフィルム時代とは違い、デジタルカメラが主流となった現代においては、レンズの質はもちろんのこと、カメラ自体の性能が作品作りにも大きな影響を与えます。

各メーカーからは様々なカメラが発売されていますが、同じ鉄道写真でも編成写真中心か、鉄道風景主体かなど、撮り手の撮影スタイルによって欲する性能や機能は全く違うので、ぜひ自身の撮影スタイルに合わせたメーカーと機種を選びたいものです。

カメラやレンズ、撮影機材は、会話をするように大切に接していると、不思議なことに良い作品を撮ってくれます(笑)。ぜひ機材と対話し、カメラやレンズの得意な部分を理解し、相棒として各地を旅していただきたいと思います。

さて、そんな相棒との旅にベストな美しい季節がやってきました。そう、「秋」です。冬に向けて、野山が競い合うかのように、美麗な彩りがそこかしこ広がります。

鉄道写真撮影欲が高まる美しい季節「秋」到来!
鉄道写真撮影欲が高まる美しい季節「秋」到来!

ちなみに、秋に色づく木は落葉樹というのは皆さんもご存知だと思いますが、なぜ秋になると落葉樹の葉が黄色や赤に色づくか、ご存知でしょうか。

葉の緑色は葉緑素であるクロロフィルで、日光に当たることによってデンプンなどの養分を作り出しています。それが秋になると日光に当たる時間が少なくなることで効率的に養分を作れなくなるため、クロロフィル自体を分解して養分として木に回収してしまいます。養分をある程度回収すると、枝と葉の間に養分が行き来できないよう「離層」というブロックを作りますが、葉緑体の一つである黄色のカロテノイドはクロロフィルよりも長く葉に残るため黄葉になるのです。

また、離層ができても葉に残ったクロロフィルはデンプンを作り続け、さらにそのデンプンは糖に分解されます。日光に当たることで、その糖と葉の中にある酵素が反応して、赤い色のアントシアニンを生み出すと考えられています。木の種類によってこれらの働き方が違うので、黄葉や紅葉の木が山々にあふれるということなんですね。以上、「紅葉なんでもゼミナール」でした(笑)。

葉の色が変わる仕組み。クロロフィルの減少でカロテノイドが増えることで黄色く見えるようになり(左~中央)、残ったクロロフィルが作るデンプン→糖と酵素の反応で赤く見えるようになります(中央~右)(編集部作成)
葉の色が変わる仕組み。クロロフィルの減少でカロテノイドが増えることで黄色く見えるようになり(左~中央)、残ったクロロフィルが作るデンプン→糖と酵素の反応で赤く見えるようになります(中央~右)(編集部作成)

さて、本題の鉄道写真撮影の話に戻しますが、紅葉は春の桜と同様、タイミングが重要です。少しでもずれると、せっかくの紅葉が落葉してしまいます。天気予報アプリや紅葉情報、例年の紅葉時期を参考にしながら計画を立てましょう。ちなみに私は、他の撮影などが重なってしまい、慌てて撮りに行ったものの、結局取り損なってしまった、ということが何度もありました。紅葉に合わせた自身のスケジューリングも大切です(笑)。

あらかじめ「ここで、こう撮ろう!」という目標を立てることも大切です。特に、列車は都市部ではない限り、頻繁に走っていません。「秋の日は釣瓶(つるべ)落とし」と言われるだけあって、日の入り時刻も早くなります。必然的に撮影時間も短くなるので、現地で撮影場所を探していると時間ばかり過ぎてしまいます。ようやく撮影場所を見つけても列車が来る頃に、夕日が山稜に沈んでしまったなんてことも……。来週にリベンジしたいと思っても、その頃にはもう落葉してしまいます。「○○時の列車はここで撮影する」といったような細かなスケジュールを立てるようにしたいものです。

また、カメラやレンズ、特に電池の充電やメモリーカードはお忘れなく。昔は、カメラにフィルムを入れ忘れた時に「これがほんとのカラ(空)ーフィルム!」と言ってボケることができた時代でした(笑)。そんな場合でも、現場でフィルムを余分に持っている方から買うこともできました。しかし、今は現場でメモリーカードを分けてもらえる方はなかなかいらっしゃいません。そんなことの無いよう、ワクワクする気持ちをかみしめながら、前日の用意はしっかりやりましょう!

秋の風景は逆光がベスト!?秋の風景と光線のお話

とりわけ鉄道写真は、順光がベストと思われています。それは、車両の輪郭や色合い重視の編成写真や、青空を入れた海や青空の色をきっちり出す鉄道風景写真に、最も適している光線だからです。順光は、被写体の色を比較的正確に表し、メリハリのあるコントラストで表現できます。

しかし、季節が秋となると、光線の考え方も変わってきます。

順光がベスト……ではない! 秋の風景写真は逆光で輝く
順光がベスト……ではない! 秋の風景写真は逆光で輝く

葉緑素であるクロロフィルは日の光を遮るので、特に夏場の深緑では、木陰になる個所はかなり暗くなります。しかし先述した通り、木々は秋が深まるにつれて、葉緑素であるクロロフィルが徐々に薄れていきます。葉に残ったカロテノイド(黄葉)や、新たに作り出されたアントシアニン(紅葉)は、日光を透過します。日光が透過した黄葉や紅葉は、ステンドグラス効果でより鮮やかに見えるのです。それはもう、美しい色合いになること間違いなしです。

また、秋の風景としてススキを題材に撮影することがあると思いますが、ススキもやはり逆光で狙うのがおすすめ。特に目一杯膨らんだススキの穂は、逆光によってふんわり柔らかく輝きます。秋晴れの撮影はぜひ逆光で撮影してみましょう!

紅葉は全ての天気が撮影日和!? 紅葉は天気にオールマイティな自然風景

写真撮影をしているとよく聞くのが「撮影日和」という言葉。だいたいが気持ちの良い晴天の下での撮影のことを指していますが、秋の紅葉撮影は少々違ってきます。

紅葉は、深緑に比べて日光を透過するとはいえ、やはり順光で撮影すると、下の枝葉に影を落とします。また、ある程度落葉していると、山肌が見えてしまい、そこが土色や黒く見えてしまうので、鮮やかさも半減してしまいます。だからこそ逆光がおすすめということもあるのですが、「紅葉に適しているのは曇り空」と言う風景写真家も少なくありません。

「紅葉に適しているのは曇り空」という考え方も。天気が悪くても、紅葉シーズンは毎日が撮影日和
「紅葉に適しているのは曇り空」という考え方も。天気が悪くても、紅葉シーズンは毎日が撮影日和

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曇りの時の光線は、晴天時に比べてメリハリのある色彩ではなく、またコントラストも弱くなりますが、紅葉にとってはその状況の方がメリットになります。曇り空の光線は、紅葉を柔らかく表現してくれます。また、木陰の部分が黒くつぶれることが少なくなり、コントラストが弱くなる分、地面が多少見えていても、紅葉や草に同

ニコンの新・超望遠レンズの実力は?「NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR」レビュー

ニコン「Z 8」に引き続き、ニコンZユーザーにてプレゼンテーターの私がお送りするレビュー第2弾は、8月31日に発売となった「NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR」です!

ニコンの新・超望遠レンズ「NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR」(編集部撮影)
ニコンの新・超望遠レンズ「NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR」(編集部撮影)

ニコンZユーザーのみならず、これからミラーレス一眼カメラデビューをしようと思っている鉄道写真愛好家の皆さんにとっても、気になるレンズの一つではないでしょうか。僭越ながら一足早く実写体験してきましたので、簡単ですが皆さんに「NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR」のお話しをしたいと思います。

超望遠こそ力。鉄道写真撮影への貢献度と期待度は「特大」!

「NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR」の魅力は、何と言っても600mmの超望遠域までカバーできるズームレンズということ。先代のニコン一眼レフ用Fマウントレンズ「AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR」は私も長い間愛用していたレンズでしたが、その性能とポテンシャル、そして魅力を受け継いで誕生したのが「NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR」です。

先代にあたる、ニコンFマウント用の「AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR」(画像:ニコン)
先代にあたる、ニコンFマウント用の「AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR」(画像:ニコン)

大三元の望遠側である「NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S」ユーザーの皆さんも、その先の焦点距離に繋がる超望遠ズームレンズということで首を長くして待っていたのではないでしょうか。

先代より大きくなってもコンパクト?なボディサイズ感

さて、前置きはこのくらいにして、早速使用感からお話ししましょう。

まず、ボディサイズ等の感触ですが、「NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR」は前玉が伸びない「インターナルズーム機構」を採用しています。そのため、ボディは前玉が繰り出し式の「AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR」の最短サイズに比べて約5cm長くなっています。ただ、最大焦点距離が100mm伸びて600mmになっているので、逆にコンパクトに感じます。

また、繰り出し式機構で多少なりとも感じた「耐衝撃性や隙間に雨が入るのでは」といった不安が解消されたのは、鉄道写真撮影ハードユーザーとしては嬉しい限りです。

このほか、数字には表れていませんが、手で支持する筒鏡部は「AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR」よりも細く、また重量も約160グラム(三脚座を含む)軽くなっています。「AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR」ユーザーだった人も「NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR」よりもコンパクトな印象を受けるのは間違いありません。

焦点距離や画質、AF精度などは? 最高峰「S-Line」でなくても高パフォーマンス

焦点距離は、やはり600mmまでカバーしてくれるという点が一番の魅力です。近年の鉄道写真撮影は、現場での制約が厳しくなったこともあって、架線柱と架線柱の間から狙うなど、超望遠レンズでないと無理な撮影も増えてきました。また、それが545mmや580mmといった微妙な焦点距離の撮影地だからこそ、超望遠ズームレンズ「NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR」は活躍するのです。

また、1.4倍テレコンなら840mm、2倍テレコンを装着すると1200mm、更にDXモード(APS-Cサイズ)で撮影すれば最大1800mm(35mmフルサイズ換算)の、驚くべき超々望遠の世界が楽しめます。

描写力に関しては文句なし!画面四隅近くにピント面が来ても、焦点距離全域でシャープな描写力を見せてくれるのは実に頼もしいです。

ズームレンズで気になるボケの表現力は、単焦点レンズの自然な柔らかさにかないませんが、自然な雰囲気が残る柔らかくてナチュラル感のあるボケ味で、十分鑑賞に耐えるレベルです。

ちなみに「NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR」は、Zレンズの最高峰「S-Line」シリーズではありません。そのため、ゴーストやフレアを強力に抑える「ナノクリスタルコート」や「アルネオコート」は採用されていませんが、「ニコンスーパーインテグレ―テッドコーティング」を採用することでゴーストやフレアを効果的に除去。強い逆光でも、高コントラストで鮮やかな作品に仕上がります。実際に、列車の正面からヘッドライトに照らされるような撮影でも、ゴーストやフレアの発生は非常に少なかった印象です。

「S-Line」ではない本レンズでも、ゴーストやフレアは効果的に除去。描写力も問題なし
「S-Line」ではない本レンズでも、ゴーストやフレアは効果的に除去。描写力も問題なし

AFについては、動作自体は速く、また正確に感じました。これは、AF駆動用に起動と停止のパフォーマンスに優れたステッピングモーターを採用したことが大きいと思います。

ステッピングモーターは、動作パフォーマンスが良いものの、トルクが弱いために重量級のレンズには不向きという難点がありました。しかし、これはあくまで推測ですが、「NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR」は各部を軽量化することで、ステッピングモーターが採用できたのだと思います。

そのため、動く被写体にピントを合わせ続けるAF-C(コンティニュアスAFサーボ)では、高速&的確なピント合わせができます。実際に、私が好きな列車の顔アップの作品も思いのまま。もちろんこのAF性能は、レンズだけでなくカメラ側の能力にもよりますが、「NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR」はZシリーズのフラッグシップカメラ「Z 9」の高度なAF能力にも即応できる性能を持っているように感じます。

AFの速度や精度は良好。筆者が好きな顔アップの撮影も思いのまま
AFの速度や精度は良好。筆者が好きな顔アップの撮影も思いのまま

鉄道写真愛好家なら欲しい一本!

先述したように、鉄道写真、特に編成写真などの車両中心の撮影は、望遠~超望遠レンズの重要性が高くなっています。その中で、「NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR」の登場は、鉄道写真界の中ではとても大きな出来事だと感じます。

また、なんと言っても高価になりがちなフルサイズミラーレス一眼カメラ用超望遠ズームレンズの中において、22~25万円程度(2023年9月現在)と比較的お手頃価格というのも嬉しいところ。これを機に、「NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR」の導入を検討してみるのもいかがでしょうか。

次回「助川康史の『鉄道写真なんでもゼミナール』」は冬の鉄道写真の撮影方法を解説いたします。

凛とした冷たい空気は作品にも透明感を表現してくれます。冬の撮影ならではのテクニックやセッティング、アプローチの考え方や準備のお話しをしたいと思います。次回もどうぞご期待ください!

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