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夏は生命と鉄道の力強さ表現する季節!! 梅雨から夏本番の鉄道写真の撮り方を解説

2023年5月20日(土) 鉄道カメラマン 助川康史

夏は暑いが鉄道写真も熱い!!

2023年の春は温かくなるのが早く、桜前線も例年よりかなり速足で全国を駆け抜けていきました。そして4月下旬には気温が25度を超える夏日が各地で起こり、中には真夏日になるところも。近年は地球規模の温暖化が叫ばれていることもあり、今年の春の速さ、そして暑さに異常を感じる人も多かったのではないでしょうか。

しかし本当の夏はこれから。新緑だった木々は深緑へと変わり、梅雨が明ければ日差しの眩しい季節がやってきます。夏は青い海と白い雲、川のせせらぎやヒマワリなど、春とはまた違った彩りが美しい季節です。夏の暑さにも負けない程の熱く素晴らしい鉄道写真を撮りに行きましょう。

夏らしい鉄道写真を撮ろう!
夏らしい鉄道写真を撮ろう!

ただし、夏は春と違って、体力的にも厳しい季節となります。より良い写真を撮るためにも、機材はもちろんのこと、命を守るための準備も怠らず、より綿密な計画を立てて撮影に臨みたいところですね。

梅雨も日本ならではの美しい季節 

5月も後半となると、徐々に曇りが優勢の天気になり、沖縄から梅雨入り宣言が始まります。6月に入ればとシトシトした雨が降る地域が増え、「鬱陶しい季節」なんて言葉がテレビでも聞かれるようになります。

モヤが掛かった山あいの風景。梅雨時らしい鉄道写真の撮影チャンスです
モヤが掛かった山あいの風景。梅雨時らしい鉄道写真の撮影チャンスです

皆さんもご存じだと思いますが、梅雨は北の寒くて乾燥した空気と南の温かく湿った空気がぶつかり合うところにできる前線の影響によるものです。基本的に、6~7月はこの2つの空気の勢力が互いに拮抗するため、前線が停滞することになるのですが、それを梅雨前線と呼ぶのです。

ちなみに、なぜ「梅雨」と書くのかは諸説ありますが、もともとは中国の「黴雨ばいう」からともいわれています。「黴」はカビのことであり、「雨が多くカビが発生しやすい季節」という意味だそうです。ただ、それでは語呂が悪いということで、加えてこの時期の日本では、ちょうど梅の実が熟す時期でもあったので、同じ読み仮名の「梅」とかけて「梅雨」としたそうです。

さて、鉄道写真に限らず様々な分野の写真を撮る人は、「雨は写真日和ではない」と思いがちです。しかしその考えはもったいなさすぎます!

しっとりした緑は、雨の日ならではの色味。雨に遠くの山は霞みますが、それもまた雨ならではの風景ではないでしょうか。また、雨が止んで気温が下がると、山肌からモヤのようなものが立ち上ります。これは「滑昇霧かっしょうぎり」といわれるもので、まるで山々が呼吸をしているようにも見えますね。まさにフォトジェニックな光景ではないでしょうか。梅雨時はそんな潤いを感じるような風景や情景を探して鉄道と絡めてみましょう。

やがてシトシトした雨の日から雷が聞こえるようになり、雨が激しく降る日が多くなれば、梅雨明けも間近です。そんな豪雨の中を高速で突き進む新幹線や特急などは、格好の被写体。車体に強くはじかれた雨は細かく弾け、霧のベールを纏いながら走る姿は、その恰好良さにしびれてしまいます。

豪雨の中を走る新幹線は格好の被写体。「雨は写真日和ではない」の考えはもったいない!
豪雨の中を走る新幹線は格好の被写体。「雨は写真日和ではない」の考えはもったいない!

どうでしょうか。梅雨時らしい写真を考えるだけでもワクワクしてくるではありませんか?雨だから家に籠ると言わずに、是非撮影に出てみましょう。

ちなみに梅雨の天気に関わる豆知識を一つ。梅雨前線には「七五三(しちごさん)の法則」というのがあるのですが、ご存知でしょうか。これは前線から700キロ(七)離れれば晴れ、500キロ(五)離れれば曇り、300キロ(三)以内だったら雨、ということだそうです。天気図で梅雨前線の位置を見ながら「七五三の法則」を照らし合わせて撮影の計画を練るというのも良いですね。

入道雲は「梅雨明け10日」が狙い目!?

梅雨が明ければ、いよいよ夏も本番。湿度の高いじめじめした暑さが日に日にカラッとした暑さになり、うだるような暑さが始まります。

そんな夏らしい風景として、入道雲を思い浮かべる人も多いと思います。入道雲は積乱雲や雄大雲であり、特に積乱雲では強い降雨や雹、雷などが発生するのはご存知の通りです。

いかにも夏らしい入道雲と絡めて
いかにも夏らしい入道雲と絡めて

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入道雲が発生する条件はいくつかあるようですが、主に地表近くの空気が高温で、上空に冷たい空気が入り込むことで生まれます。温かいものが上に、冷たいものが下に、となるのは理科の授業で習ったと思いますが、梅雨明けや晩夏になると大気では逆転現象が起きます。特に日中暑い日差しに照らされた地面から熱い空気が急上昇

さて、久々ですが、「鉄道写真なんでもゼミナール」に読者から質問を頂きましたので、お答えいたします。

Q.

プロカメラマンから見て、フォトショップなどでの処理は、どこまで許されると思いますか?

調整程度ならプロの方もやっているとは思いますが、「インスタ映え」のような彩度を上げた写真や、後からわざとらしいくらいのフィルム調に変えるのは、写真としては少し違うのではないかと思います。このあたりをどうお考えか、教えてください。

A.

デジタルカメラになってから、誰もが簡単にレタッチ(画像修正)や画像加工が簡単にできるようになりましたね。簡単にできるからこそ、どの程度やって良いのかという線引きもあいまいになっているのも事実です。

さて、ご質問の根幹となる大きな色味の修正の件ですが、私なりの考えを先に述べるならば、「不自然に感じない程度であれば、自由にレタッチや修正をしても構わない。ただ人それぞれの表現なので敢えて口出しはしない」とお答えします(笑)。

Instagramに発表される写真、いわゆる「インスタ映え」する写真としてよく見られるのが、異様に彩度が高い作品です。パッと見は良い様に感じるかもしれませんが、私たちプロにとっては、目が痛くなる不自然な写真に見えます。

モノクロフィルム時代から、良い写真の条件の一つとして「滑らかな諧調」というのが挙げられます。ハイライトからシャドー、そして色味も含め、滑らかな諧調を意識した写真は、立体的でかつリアリティ溢れた写真に仕上がります。かたや、彩度とコントラストが異様に高い作品は諧調が出にくく、立体感とリアリティを感じない作品になります。たとえば綺麗な料理の写真を撮った時、彩度を上げて鮮やかにすることはできますが、異様に鮮やかすぎる料理は美味しそうに見えませんね。

逆に、「何もせず、カメラに設定に任せた写真そのままが良い」というわけでもありません。カメラでできる色味などのセッティングは大まかなもので、ファインダーや背面モニターで見る露出や色味は正確ではありません。デスクトップの色評価用モニターで見ると、また違っていることも多いです。加えて、撮影した原版データがその場の空気感や感動を的確に表現できていないということもあります。そのため、撮影した時の印象をしっかり表現するためにコントラストや色味、彩度をレタッチするという作業も良くやります。

写真を嗜む方はレタッチ否定派の方も一定数いるようで、そういう方たちはポジフィルムでの撮影を経験されている方が多いです。ポジフィルムは、撮影したままの色がそのままフィルム上で再現され、プリントなどで色調を変えることができないと言われていたので、撮影時の設定が全てを左右すると考えらえていました。私もポジフィルム撮影経験者で、その気持ちも良くわかります。しかし実は、プリント段階で、ある程度は色味やトーンを変えることはできるのです。

写真で大切なのは、そのイメージをいかに自分のイメージに忠実に仕上げるかです。そのイメージというのは人それぞれですので、一概に「これが駄目」「あれは良い」とは言えないのです。

写真で大切なのは、そのイメージをいかに自分のイメージに忠実に仕上げるか
写真で大切なのは、そのイメージをいかに自分のイメージに忠実に仕上げるか

ちなみに私には、「写真は一つの時間を表現するもの」というポリシーがあります。簡単に言うと、別々の写真を合成して一枚の写真に仕上げるということを良しと考えません。

「比較明合成」という写真の合成方法はご存知でしょうか。例えば、星空と動いている列車を写し止めたり、同じく蛍が光の帯となって舞っている中で走る列車を写し止めた作品を見ることがありますが、これは「比較明合成」という手法による合成写真です。

夜に星を流さずに写し止めるには、最低でも5秒以上はシャッターを開けなくてはなりませんが、それでは走っている列車は光の帯になってしまい、車両の輪郭は全く写りません。走る列車を写し止めるには、1/125秒以上の高速シャッターで写し止めなくてはならないのです。よって、この二つの状態を同時に撮影することは不可能です。

また、蛍の写真も同じことで、光の帯となって舞っている蛍を表現するにも、シャッターを数秒間開けなくてはなりません。そんな状態で走る列車を撮影したら、蛍の光の帯の長さ以上に、列車が光の帯となって流れます。このような、実際には撮れない表現を実現すべく、二つの写真を組み合わせる方法としてよく使われるのが、この「比較明合成写真」なのです。

ただ、先ほども述べた通り、私は「写真は一つの時間を表現するもの」というポリシーがあるので、二つ以上の写真を合成して一つの写真にするということは良しと考えません。もちろん仕事で依頼された時は別ですが、通常の鉄道写真撮影では、そういった合成写真を私の作品として発表することは今後もないでしょう。

しかし、これは私のポリシーであって、人に強制することではないと思っています。比較明合成写真しかできない表現というのも実に面白いもので、それは一つの作品であるからです。私たちプロは、それぞれの独自の色やトーンの表現を持っていますが、それでも被写体のリアリティを活かした修正をするというのを心掛けています。しかし、写真をよりアーティスティックに加工して芸術作品として発表することも素晴らしいことだと思います。

写真のレタッチや加工については自身の中でこだわるもので、人の作品は作品として認めるというのが良いスタンスではないでしょうか。ただ事実や真実を捻じ曲げるような合成写真はよくありませんね(笑)

次回「助川康史の『鉄道写真なんでもゼミナール』」は秋の鉄道写真のお話を…、と思いましたが、ニコンから「Z 8」という魅力的なミラーレス一眼カメラが発表されたので、そのお話をしようと思います。デジタルカメラで共通の撮影テクニックについても触れる予定ですので、他メーカーユーザーのかたもご期待ください!

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