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災害や列車火災、さまざまな状況に対応する東海道新幹線の訓練

2020年12月31日(木) 鉄道コムスタッフ 西中悠基

車内で火災が発生!をCGで再現

実際の車両や設備を使用した訓練は実践的ではありますが、設備の保守や訓練参加者の労働時間などを考えると、そう何度も実施することはできません。とはいえ、訓練は何度も反復しなければ、いざという時に対処することもできません。そこでJR東海を始めとする大手鉄道事業者では、訓練用のシミュレーターを整備し、異常時などに備えています。

JR東海では、新幹線の運転士向けに「異常時訓練シミュレーター」を導入。実際の車両を使わずとも、リアルに近い訓練を実施できる環境を整備しています。

このシミュレーターが設置されているのは、静岡県三島市のJR東海総合研修センター。「対話形式」と「自習形式」の2つのシミュレーターが整備されています。

JR東海総合研修センター
JR東海総合研修センター

対話形式のシミュレーターは、運転士役と指令員兼車掌役の講師とがマンツーマンで対話できるもの。実際の列車のように、運転士が対話して連絡する訓練を実施できるほか、運転士の技量にあわせ、講師が異常事態を発生させることができるシミュレーターです。

手前が指令員・車掌役の講師、奥が訓練する運転士
手前が指令員・車掌役の講師、奥が訓練する運転士

まず初めに公開されたのは、架線に飛来物が付着している状況の訓練です。

強風のため徐行している状況で、指令から「現地確認中のため時速30キロ以下で運転せよ」との無線が入ります。これに応答した後に走行を続けていると、前方の架線に飛来物が。これを認めた運転士は、ただちに非常ブレーキ。列車を停車させます。この後も、停止した報告や運転再開指示など、指令とのやり取りが続くことになります。

前方に飛来物を認め、指令に連絡する運転士
前方に飛来物を認め、指令に連絡する運転士

続いて公開されたのは、車内での火災発生を想定したシナリオです。

トンネル内を走行中の列車の運転台に、非常ボタンが押されたことを知らせる警報が鳴ります。非常ボタンが押された場合、運転士はまず非常ブレーキで停止手配を取ることになります。

続いて、運転士は運転台のモニターで防犯カメラの映像を確認。すると、デッキ付近で火災を発生していることを確認します。このまま減速し、トンネル内で停止してしまうと、乗客の避難に支障をきたしてしまいます。そこで運転士はブレーキを解除し、トンネル外で列車を停車させることに。あわせて車掌など乗務員へ連絡し、火災の処置を依頼します。

運転台に表示できる防犯カメラの映像(画像は加工しています)
運転台に表示できる防犯カメラの映像(画像は加工しています)
トンネル内での停止を避ける運転士(画像は加工しています)
トンネル内での停止を避ける運転士(画像は加工しています)

このように、実践的な訓練を実施できるこのシミュレーター。他にも、大雨や強風、車両故障といった事象の対応を訓練できるといいます。

一方の自習形式のシミュレーターは、運転台とモニターで構成される、比較的小さなもの。指令や車掌との対話はモニターに文字で表示される簡易的なものですが、運転士自身がメニューを選択し、苦手項目や弱点を訓練することができます。

自習形式のシミュレーター
自習形式のシミュレーター

JR東海では、この異常時訓練シミュレーターの導入以前にも、訓練用のシミュレーターを使用してきました。旧型のシミュレーターでは、主に車両故障の対応に主眼を置いた訓練を実施してきたといいます。

しかしながら、東海道新幹線の車両では、新型車両になるにつれ、車両故障の発生頻度は減少しているといいます。一方、近年では大規模な災害が多発しているほか、東海道新幹線では放火や殺人といった痛ましい事件も発生。車両故障よりも、これらの事象に重点を置いた訓練の実施が求められていました。

また、今回公開されたシミュレーターの導入で、約800人在籍している東海道新幹線運転士のシミュレーター訓練を、従来の四半期に1回程度から、2か月に1回程度に増やすことができたといいます。

2020年には、新型車両「N700S」の導入、「のぞみ12本ダイヤ」の開始など、新たな一歩を踏み出した東海道新幹線。この進化の背景には、このような社員の訓練による安全性の向上も貢献しているのです。

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