スマホと同様のしくみで給電、山梨リニア実験線の新型リニアモーターカー

2020年10月20日(火) 鉄道コムスタッフ 西中悠基

JR東海は10月19日、山梨リニア実験線の試験に使用する改良型試験車を、報道陣に公開しました。

リニアモーターカー改良型試験車
リニアモーターカー改良型試験車

スマホと同様のしくみで電力を供給する車両

改良型試験車は、2013年に試験を開始した従来型のL0系を、さらにブラッシュアップさせたもの。従来型のL0系は、国土交通省の実用技術評価委員会より、営業運転に投入できるレベルとの判定を受けたという、完成度が高い車両。ですがJR東海は、従来型よりも性能や快適性の向上などを目指し、さらなる進化を図った改良型を製造。8月に試験に投入しました。

従来型のL0系
従来型のL0系

先頭部は、従来型から形状を変更し、空気抵抗を約13%削減。カラーリングは、躍動感や滑らかな空気の流れをイメージしています。前照灯と前方視認用カメラは、従来の先端部から車両上部に移動。前方視認性を向上しています。車内では、コンセントを設置するなど、快適性に配慮。技術面では、新しく「誘導集電方式」を採用し、営業運転にまた一歩近づいた車両となっています。

従来型車両のカメラが撮影した前方の映像。カメラの設置位置が低く、路面すれすれとなっています
従来型車両のカメラが撮影した前方の映像。カメラの設置位置が低く、路面すれすれとなっています
改良型車両のカメラによる映像。従来型よりも目線が上がり、前方視認性が向上しています
改良型車両のカメラによる映像。従来型よりも目線が上がり、前方視認性が向上しています

誘導集電とは、離れた2つのコイルに交流電流を流すと生じる磁界の変化を利用し、もう片方のコイルに電力を発生させるというもの。これにより、パンタグラフのように物理的に接触する部分を設けなくとも、地上から車両に電力を供給することができます。誘導集電の原理は、身近なところでは、一部のスマートフォンが採用している、「Qi」のようなワイヤレス充電にも使われています。

誘導集電のしくみ
誘導集電のしくみ

従来のL0系までの超電導リニア車両では、航空機用エンジンを基にしたガスタービンエンジンを、発電用に搭載していました。しかしながら、長大トンネルがある路線で、ガスタービンエンジンの燃料である灯油を搭載するという点についての安全性への懸念や、トンネルでの排出ガスの処理の問題、電気部品とは構造が異なるガスタービンエンジンのメンテナンスといったデメリットから、新たな電力供給方式として誘導集電方式を開発。今回の改良型試験車両で実用化されました。

現在、山梨リニア実験線では、全長約42.8キロの一部区間に、誘導集電に対応した設備を設置しているとのこと。現時点では、ガスタービンエンジンと組み合わせて走行試験を実施しているといいます。

車内設備も、従来のL0系から進化しました。

2両製造された改良型は、それぞれで内装を変えています。先頭車は、天井に膜素材を活用し、車内の反射音を低減。荷物棚は小型化し、広がりのある天井空間を演出しています。また、車端部の壁は黒を基調とし、落ち着きのある空間を目指しています。

改良型先頭車の車内
改良型先頭車の車内

中間車は、天井にガラス素材の吸音材を活用。白を基調とし、明るい直接照明とすることで、トンネルが多いリニアの車内空間を明るく演出します。

改良型中間車の車内
改良型中間車の車内

座席の幅は477ミリ、奥行きは445ミリ、背ずりの高さは1230ミリ。従来型よりも、それぞれ22ミリ、40ミリ、140ミリ拡大されました。背ずりのクッションは見直され、ばね+スポンジの構造に。N700S同様、リクライニング時には座面も連動して傾くようになりました。また、従来型では電源設備はありませんでしたが、改良型ではUSBコンセントが肘掛けに設置されています。

肘掛けに設置されたUSBコンセント
肘掛けに設置されたUSBコンセント
座席背面のドリンクホルダーは独特な形状
座席背面のドリンクホルダーは独特な形状

また、従来の車両では座席上に荷物棚が設置されていましたが、改良型ではこれを小型化。代わりに座席下に荷物スペースを設けたほか、車端部には大型荷物スペースを設置しています。

荷物棚は小型。スーツケースを載せるのは難しそうです
荷物棚は小型。スーツケースを載せるのは難しそうです
座席下に設けられた荷物スペース
座席下に設けられた荷物スペース
車端部に設けられた大型荷物スペース。ただし、新幹線で設置が進められているものよりは小ぶりです
車端部に設けられた大型荷物スペース。ただし、新幹線で設置が進められているものよりは小ぶりです

これらの車両について、取材陣の中からは、ACコンセントではなくUSBコンセントを採用したことや、背面テーブルではなく小型のインアームテーブルの設置により、PCの利用が難しくなるという意見が聞かれました。また、東海道新幹線などで設置を進めている大型荷物スペースに比べて、改良型車両の荷物スペースは小ぶり。座席下の荷物スペースも大きな荷物は入りません。

改良型のテーブルは、肘掛け収納式のインアームテーブル。PCを置くには少々厳しいサイズです
改良型のテーブルは、肘掛け収納式のインアームテーブル。PCを置くには少々厳しいサイズです

これらについて、JR東海 山梨実験センター所長の大島浩さんは、USBコンセントについては「スマートフォンなどのモバイル機器を使う人が増えれば、USBの方が便利なのではないか」と説明。また、テーブルについても、通信機器が小型化されていくことを考えれば、インアームテーブルで良いのではないかと考えていると説明しました。なお、インアームテーブルについては、軽量化という観点で背面テーブルより有利なことも、採用した理由の一つだということです。

ただし、今回の改良型車両は、そのまま営業運転に投入されるわけではありません。大島さんは、この車両での試験結果や、東海道新幹線のデータなどを見つつ、営業用車両に反映していくと話していました。

時速500キロを体感

実際に、従来型と改良型による走行試験に乗車してみました。乗車時の編成は7両で、うち東京方の2両が改良型。残りの5両は従来型という組成です。

時速500キロで走るL0系
時速500キロで走るL0系

動き始めは、従来の鉄道よりも大きな加速度(G)を感じます。軽自動車でアクセルを踏み込んだような印象です。減速時はクルマでブレーキを踏んだような印象。半径8000メートルのカーブでは飛行機が旋回したような横Gを感じるなど、従来の車両とはひと味違った乗り心地です。

時速500キロで走行する際には、抵抗制御の車両のような、ブーンという低い音が聞こえてきます。ただし、車内で会話できるレベルの静粛性は保たれており、新幹線と同じように特に気になる音量ではありません。従来型と改良型を乗り比べると、明らかに改良型は騒音が小さくなっています。膜屋根やガラス素材といった吸音材を天井に配するなど、改良型で手が加えられた部分の結果が表れています。

ガラス素材による吸音材を配した中間車の天井
ガラス素材による吸音材を配した中間車の天井

実験センター所長の大島さんも、個人の感想と断りつつも、特に騒音が顕著となる傾向にある先頭車でも、「騒音が小さくなったと感じる」と話していました。

また、車両のサスペンションの差か、あるいは従来型の経年による剛性低下かは不明ですが、改良型は振動も小さくなっているように感じられました。とはいえ、こちらも騒音同様、従来型でも気にならないレベルに抑えられています。

この山梨リニア実験線での成果を活かしたリニア中央新幹線は、2027年の東京(品川)~名古屋間開業を掲げ、工事が進められています。現時点では、L0系を使用した実験線での試験は、2022年度までを予定しているとのこと。実験センター所長の大島さんは、昨今の事情により「今後実験できる期間はわからない」としながらも、「営業線を作る時にやり残したことの無いよう、全て実験線で検討し、確実に営業線用のリニアを作っていく」と、今回の改良型L0系に掛ける思いを語っていました。

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