素晴らしい力作が続々登場、懐かしの鉄道写真コンテスト講評会

2019年11月22日(金) 鉄道コムスタッフ

鉄道コムは9月22日、「鉄道写真 撮影上達セミナー ~懐かしの鉄道写真コンテスト講評会~」を開催しました。「懐かしの鉄道写真コンテスト」にご応募いただいた写真を講評するとともに、審査員の2人が写真撮影術を紹介する内容で、当日は多くの方にご参加いただきました。本記事では、当日の講評会の模様をお伝えします。

懐かしの鉄道写真コンテスト講評会

多くのご応募をいただいた懐かしの鉄道写真コンテスト。その中から選ばれた入選作品15作品が、みなさまの前で講評されました。登壇したのは、写真コンテストの審査員を務めた、鉄道写真家の助川康史さんと山下大祐さん(以下敬称略)。モデレーターは、鉄道コム編集長の松岡孝昌が務めました。

鉄道写真家の助川康史さん(左)と山下大祐さん(右)
鉄道写真家の助川康史さん(左)と山下大祐さん(右)

――今回のコンテストの総評をお願いします

助川:「懐かしの鉄道写真」というテーマのコンテストは、なかなか珍しいです。広い世代に渡って、より広い鉄道の歴史も感じられるようなコンテストで、自分たち鉄道写真家でも知らない世界が味わえました。さらに、現代のものを懐かしいように捉えるというように、写真に対する明確な狙いが見えていました。応募作品ははどれも粒ぞろいの作品ばかりで、選ぶのに苦労しました。また、写真の存在意義というものもコンテストの作品の中にはあるので、それをぜひ感じていただきたいと思います。

山下:「懐かしの」と付いただけで、こうも選ぶのが難しくなるとは思いませんでした。過去の写真も多く、見る人間の鉄道知識も問われる部分があります。自分が現実で見られなかったような、懐かしさをストレートに繋げた被写体もあり、一方で、現代も見られる風景で懐かしさを表現した作品もあり、二極化が顕著だったなと思います。ただ、貴重な被写体の写真というだけでなく、芸術の観点から説得力のある作品というものが、審査のポイントになったかと思います。

大賞「門司港 親子 二人旅」

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――見事大賞に選ばれた作品「門司港 親子 二人旅」です。白黒写真で、昔に撮影されたように見えますが……。

助川:と思いきや、車両は新しい形式なんですよね。

山下:この門司港駅は、以前からレトロな造形や風情を残している駅です。そこを作品の舞台に選んだということは、アプローチとしてはとてもストレートで、現代の写真ながら懐かしさを感じさせるのにふさわしい舞台背景を選んだのだなと思います。私が好きなところは、カメラの向きを厳密に決めている点です。とっさに構えたのか、カメラを据えて撮ったのかはわかりません。しかし、柱が並ぶ垂直の線が平行に走っていて、上か下にすぼまっていない点は、非常に好感を覚えます。また、写っている子どもがカバンをガラガラ引いていて、ストーリーを膨らませています。構図や人物の大きさ、表現の仕方がどれも素晴らしい。この人たちが偶然通りかかったのかはわかりませんが、とてもいいシーンを撮られたなと思いました。

助川:門司港駅はノスタルジーな雰囲気があり、とても好きな駅です。その分人気があり人も多いのですが、この作品を撮影された方は非常に運が良かったようです。まるで仕込んだかのようなシチュエーションです。そしてこの奥行き感も素晴らしい。親子が奥にいるからこそ、これから旅に出るという旅情感が生まれます。子どもの頭が白いラインの上に出ていないのも、良いポイントです。また、子どもをよく見ると、楽しそうにぴょこぴょこ歩いているのか、若干ブレています。 鉄道写真では列車を必ずきっちり止めるという考え形が主流ですが、この写真では上手くブレを使い、動感を表現しています。場所選定と構図、被写体、そして運が全て活かされていて、それが過不足無く今回のコンテストの趣旨に合っている、素晴らしい作品だと感じました。

ユース賞「黄昏」

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――25歳以下の応募者からユース賞が選ばれました。受賞作品は「黄昏」です。

助川:これも咄嗟のシーンですね。撮影された方は10代のようですが、こういう構図はなかなか撮れません。線路を撮る場合は、真ん中にまっすぐ延びる構図にしがちです。そこを斜めの構図で撮るというひらめきが鋭いです。しかも列車内からの撮影で、外の木がブレているので疾走感があります。このように、レールを右に配置して鉄道の存在感を表し、さらに林が秋か冬の印象を与える作品作りは、大人の感覚ですよね。若いのに素晴らしいなと思います。最近は鉄道のコンテストも多くあるので、それらの作品を見てよく練っている玄人だなと感じました。

山下:このシーンを肉眼で見ると、黒い部分も空もしっかりと見えているはずです。にも関わらず、カメラで撮れば、真っ黒な中にレールが2本写るだろうと考えて撮れるというのは、撮影経験がものをいいます。肉眼であれば木々の表面も見えてくるでしょうが、そこをシルエットとする処理は、とてもベテランな印象を受けました。さらに、周囲の余白も作品に含まれているのが、オシャレですよね。

助川:シルエットを活かす場合、白い枠を入れるとアンダーに見せてしまう効果があるので、実はとても危ないんです。暗い物を撮る場合には、黒バックかグレーバックとすることが多いです。しかしこの作品の場合、白バックでも綺麗に見えるというのを計算したんでしょうか。この余白の色で良かったなと思います。

鉄道コム賞「昔も今も」

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――鉄道コムユーザーの投票で決定した作品「昔も今も」です。鉄道コム賞は審査員お2方による決定ではありませんが、意見をお聞かせください。

山下:みなさん撮りたかったシーンなのでしょうね。ヘッドマークを交換する場面は今ではほとんど残っておらず、このようなシーンが見られたのも今は昔です。みなさんが撮りたいあの名場面、というシーンを捉えたということで、評価が高かったのかなと思います。

助川:昭和の車両ですからね。今なら遠隔操作で表示を変えることができますが、この作業は3人掛かりです。相当な人件費が掛かっていたのではないでしょうか。でも、それが昭和ですよね。人の温かさを感じます。題名通り、いつも通り何気ない風景だったんですね。それが表現されているのがいいかなと思います。

ソニー賞「銀河鉄道の夜」

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――ソニーのミラーレスカメラ「α」シリーズを使用して撮影された作品から選出されました。ソニー賞に選ばれたのは「銀河鉄道の夜」です。

助川:カメラの性能が低かった昔は、星を止めて撮影することはできませんでした。長時間露光で星を流すしか方法が無かったんですよね。しかし、ISO12800という超高感度で撮られたこの写真のように、現代の高性能なカメラを使えば星を止められるようになりました。私が星を撮影する際の基準ではISO6400、F2.8で20秒露光。この場合は14mmでないと止まりません。この作品では、星どころか列車もカッチリ止まっています。今のカメラの能力、自信の技量、それをしっかりと引き出して撮った写真ですね。本当に綺麗な星空に仕上がっていると思います。

山下:星空が綺麗だというのはもちろん、星と列車以外に邪魔な光が写っていないのもポイントです。遠くに街があるだけでもぼんやりと写り込んでしまうのですが、そういった作品を形成する上で不必要な光が写っておらず、場所選びが素晴らしかったんだと思います。駅に止まっている列車ではないようですが、列車を光の線にしてしまうのではなく、それぞれの窓から漏れる光がわかるような止め方をしている点で、非常に技術が高い作品だなと思います。「α7R II」で撮影したということですが、機材の高解像性能と高感度にも強い特性を活かした写真だと思います。

特別賞(ニッポン写真遺産賞)「上野駅前、雨の夕暮れ。」

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――特別賞(ニッポン写真遺産賞)を受賞した「上野駅前、雨の夕暮れ。」です。「写真遺産」ともいえる貴重な写真を対象に選定されました。

山下:この場所に都電が走っていたのか、というのは、訪れたことがあるからこそ感慨深いものもあるのでしょう。奥には山手線の電車が停まっていますが、よく見ると非冷房の車両なんですよね。横断歩道にもくまなくシルエットが見えて、しかも雨なのか傘を差していてオシャレな雰囲気です。画面の隅々までにお楽しみポイントがちりばめられていて、時間を掛けて目を近づけて見たいという写真的な良さがありました。

助川:これこそ何気ない日常ですよね。「歴史を忠実に再現し残す」という写真の存在意義がしっかりと表現されているなと思います。上野駅のホームの道路の雰囲気は今もそのままです。しかし都電や古い車が当たり前に走っていますし、ファッションも違います。この時には何気ない当たり前の風景でも、今見ると宝物になっています。私がさまざまなセミナーで話していることなのですが、みなさんが何気なく撮った写真は、人類の宝になるかもしれません。この作品もまさしく鉄道写真の宝ですし、日本の文化の宝でもあります。そうすると世界の宝になっている。それがこの作品には凝縮されています。

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懐かしの鉄道写真コンテスト 結果発表