今なお現役、鉄道開業時の車両が生きる博物館「明治村」

2018年10月26日(金) 鉄道コムスタッフ

およそ150年前、1872年の新橋~横浜間開業から始まった日本の鉄道。この鉄道創設期に活躍した鉄道車両で、今なお現役を誇る車両がいることはご存知でしょうか?

愛知県犬山市に所在する、明治建築を保存する野外博物館「明治村」。保存対象は建築物だけでなく、工場の機械や乗り物などさまざまです。その中の一つとして、かつて新橋~横浜間を走った蒸気機関車の実物が、園内移動手段として動態保存されています。

明治村を走る蒸気機関車
明治村を走る蒸気機関車

明治村で保存されるこの機関車は、1874年に製造された「12号」。日本初の鉄道開業から2年後に導入された車両です。導入当時は23号機、のちに160形165号機を名乗り、鉄道博物館で保存されている「1号機関車」らとともに、新橋~横浜間などで活躍していました。次第に路線網が広がると後継形式も導入され、1911年に老朽化したとして整理の対象へ。鉄道院から愛知県の尾西鉄道へと払い下げられることとなります。新天地へと籍を移したこの車両は、車両番号を12号機へと変更。後年の合併により名古屋鉄道(名鉄)の所属となった後も、貨物用や入れ換え用としての活躍が続き、導入からおよそ80年後の1957年、ようやく長い現役生活を終えました。

動態保存されている12号。およそ150年前の車両とは思えない、力強い走りを見せてくれます
動態保存されている12号。およそ150年前の車両とは思えない、力強い走りを見せてくれます

引退した12号は、しばらくの間は名鉄の関連施設で保存されていましたが、1965年の明治村開村にあわせて村内に移設。その後、1974年に動態保存機として復活しました。1985年には製造当時から使用され続けたボイラーを交換したほか、2010年から2012年にかけては点検のため長期間運休したものの、2018年現在も、およそ150年前の車両としては異例ともいえる、現役での活躍を続けています。なお、交換したボイラーについては、こちらも貴重な産業遺産として、村内に保存されています。

12号から取り外された製造当時のボイラー。明治初期の設計がわかる、貴重な技術遺産です
12号から取り外された製造当時のボイラー。明治初期の設計がわかる、貴重な技術遺産です

明治村のSLでは12号のほかに、1912年に製造された「9号機関車」も活躍しています。こちらは富士身延鉄道(現在のJR身延線)などで活躍し、1973年に明治村に譲渡された車両です。また、SLがけん引する客車も明治生まれ。車輪が2つしかない二軸客車という小型の車両で、オープンデッキつきのハフ13・14と、車両の側面にドがあるハフ11の3両が在籍します。明治村のSL列車は、12号か9号のどちらかが、2両または3両の客車をけん引するのが基本スタイル。1時間に1~2本ほどの運転で、園内の東京駅と名古屋駅を約5分で結んでいます。

駅に停車中の客車。「マッチ箱」とも称される小型の車両で、ハフ13・14の2両には、扉代わりにオープンデッキがあります。12号が位置を付け替えるために移動中のヒトコマ
駅に停車中の客車。「マッチ箱」とも称される小型の車両で、ハフ13・14の2両には、扉代わりにオープンデッキがあります。12号が位置を付け替えるために移動中のヒトコマ

また明治村では、ただ当時の列車を走らせるだけにとどまらず、設備面でもこだわりを見せています。SL列車が使用する連結器は、かつて鉄道開業当時に使用されていた「螺旋輪環連結器」。ねじ式連結器とも呼ばれるこのタイプは、連結作業に手間が掛かる、連結作業時の安全面で不安がある、などの理由により、日本においては既に廃れた形式です。明治村では、明治時代の鉄道を再現するため、1974年当時にこのタイプの連結器が残存していた事業者から、連結器一式を譲り受けたといいます。このほかにも、信号機や線路に敷設する砂利(バラスト)は明治時代の規格を採用するなど、あくまで当時の再現を追求するという姿勢を見せています。

現代の日本では貴重な螺旋輪環連結器の連結シーン。下にある鎖のネジを締め付けた上で、作業員が手に持っている鎖を相手車両に引っ掛けます
現代の日本では貴重な螺旋輪環連結器の連結シーン。下にある鎖のネジを締め付けた上で、作業員が手に持っている鎖を相手車両に引っ掛けます
機関車を方向転換するターンテーブルは手動。こちらも明治時代に製造されたものだといいます
機関車を方向転換するターンテーブルは手動。こちらも明治時代に製造されたものだといいます

村内ではSL列車のほかにも、明治時代の鉄道として路面電車が運行されています。日本初の電気で動く「電車」として、1895年に開業した京都電気鉄道。明治村では、この京都電気鉄道が1910年から1911年に製造した車両、N58号とN115号を、京都市電として保存・運転しています。こちらも、空気を使わないブレーキや、方向転換する際に向きを変える必要のある集電装置「トロリーポール」など、明治時代の設備をそのまま再現しているのが注目されます。

SL列車とともに村内を走る京都市電。明治時代に製造され、京都市内を駆け抜けた実物の車両です
SL列車とともに村内を走る京都市電。明治時代に製造され、京都市内を駆け抜けた実物の車両です
この車両が架線(電線)から電気を集めるのに使うのは、屋根上に設置された一本の棒のように見える「トロリーポール」。架線から外れやすい、進行方向を変える際にポールの向きも変えなければならない、などの手間が多く、現代では廃れている方式です
この車両が架線(電線)から電気を集めるのに使うのは、屋根上に設置された一本の棒のように見える「トロリーポール」。架線から外れやすい、進行方向を変える際にポールの向きも変えなければならない、などの手間が多く、現代では廃れている方式です

明治建築を保存する明治村。もちろん実物の鉄道車両にとどまらず、鉄道に関連する建築物も展示物となっています。

明治村のほぼ中央、SL名古屋駅付近に建てられているのは、東京都品川区にあった「鉄道寮新橋工場」。12号機関車よりも古く、鉄道開業と同じ1872年に建てられたものです。開業当時の新橋駅は、駅としての機能だけでなく、車両基地としての機能もありました。車両基地のうち、機関車の修復用に使われたのがこの建物。歴史的価値のほか、建築方法など技術的価値からも貴重な建造物です。現在の建屋内部は機械類の展示場となっており、国の重要文化財に指定されている「リング精紡機」や「菊花後紋章付平削盤」などが保管されています。

鉄道寮新橋工場。鉄道開業と同時に建設された、貴重な建築物です
鉄道寮新橋工場。鉄道開業と同時に建設された、貴重な建築物です

正門近くにあるのは、「鉄道局新橋工場」。鉄道寮新橋工場と同じ場所にあった建築物ですが、建設されたのは1889年。この間に鉄道を所管する役所の名前が「鉄道寮」から「鉄道局」へと変わったことを物語っています。この2つの新橋工場の建物は、1919年に大井工場(現在の東京総合車両センター)に移築。1966年まで使用された後、同年にここ明治村へと移築されました。この鉄道局新橋工場の内部には、明治天皇が使用した6号御料車、昭憲皇太后が使用した5号御料車の2両が保存されています。

鉄道局新橋工場。先述の鉄道寮新橋工場が建設された後、組織単位を表す名が「寮」から「局」へ変更されたことがわかります
鉄道局新橋工場。先述の鉄道寮新橋工場が建設された後、組織単位を表す名が「寮」から「局」へ変更されたことがわかります
鉄道局新橋工場の内部に保存されている、明治天皇など皇族が利用した「御料車」。三種の神器を安置する台座など、独特の内装を観察できます
鉄道局新橋工場の内部に保存されている、明治天皇など皇族が利用した「御料車」。三種の神器を安置する台座など、独特の内装を観察できます

また、園内中央には、かつて多摩川に架橋されていた「六郷川鉄橋」が保存されています。1877年に、現在の蒲田~川崎間に架けられたこの橋は、開業当時の木製の橋を置き換えるために作られたもの。日本初の複線用鉄橋として完成したといいます。1912年に東海道本線の複々線化工事によって役目を終えた後は、1915年に東海道本線(現在の御殿場線)山北~谷峨間に架かる酒匂川橋りょうに転用。1965年に新たな桁に架け替えられたことにより任を解かれ、明治村へとやってきました。現在は、鉄橋付近に「尾西鉄道蒸気機関車1号」が静態保存されています。鉄橋本体は谷に架かる人道橋となっており、今でも現役の橋として活躍しています。

かつて東海道本線の橋りょうとして使用された六郷川鉄橋。展示物であるとともに人道橋としても現役の建築物です。明治村に保存されているのは建設当時の6連のうち1連ですが、ほかに1連がJR東海の三島研修センターに保存されています
かつて東海道本線の橋りょうとして使用された六郷川鉄橋。展示物であるとともに人道橋としても現役の建築物です。明治村に保存されているのは建設当時の6連のうち1連ですが、ほかに1連がJR東海の三島研修センターに保存されています
六郷川鉄橋付近に保存されるSL、「尾西鉄道蒸気機関車1号」。先述の12号機関車とともに、現在の名鉄尾西線などで活躍した車両です
六郷川鉄橋付近に保存されるSL、「尾西鉄道蒸気機関車1号」。先述の12号機関車とともに、現在の名鉄尾西線などで活躍した車両です

150年前のSLが現役で活躍する明治村。もちろん、三重県庁舎などの重要文化財や、帝国ホテル中央玄関、聖ザビエル天主堂などの貴重な建築物も見逃せません。鉄道創成期から始まる明治時代へのタイムスリップ、いかがでしょうか。

明治村の目玉ともいえる、帝国ホテル中央玄関。左後ろにはSLも見えます
明治村の目玉ともいえる、帝国ホテル中央玄関。左後ろにはSLも見えます

明治村について

開館時間
9:30~17:00(季節によって変動)
入館料(個人)
大人1,700円、大学生・シニア1,300円、高校生1,000円、小中学生600円
アクセス
愛知県犬山市字内山1番地
名鉄線犬山駅からバス約20分・名古屋名鉄バスセンターなどからバス約1時間
蒸気機関車・京都市電 乗車料金(1乗車)
大人500円、小学生300円
蒸気機関車・京都市電一日券、のりもの一日券の設定もあり

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