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新車両リポート

HC85系の乗り心地は? 快適さが増した新型「ひだ」で高山へ

2022年5月25日(水) 鉄道コムスタッフ 西中悠基

5月24日、JR東海の新型特急車両であるHC85系の関係者向け試乗会が開催されました。

新型特急車両のHC85系
新型特急車両のHC85系

HC85系は、高山本線などで活躍するキハ85系の置き換え用として開発された車両。2019年に試験走行車が登場し、2022年に量産車が製造されました。そしていよいよ7月には、特急「ひだ」での営業運転を開始する予定です。

デビューに先立ち乗車する機会を得たHC85系量産車を、乗車の模様とあわせてご紹介します。

快適になったHC85系

HC85系は、4両編成のグリーン車つき・グリーン車なし、2両編成の計3パターンを組成。量産車は2022年度から2023年度にかけて64両が投入される予定です。

今回乗車したのは、グリーン車つき4両編成のD3編成。東海道本線基準で岐阜方の先頭車がグリーン車の1号車、名古屋方の先頭車が普通車の4号車という組成です。

青基調のグリーン車は、「落ち着いた上質感」をコンセプトに、沿線の新緑や川、夕暮れの紫の空をグラデーションで表現。内壁は、濃い茶色の木目調として、木のぬくもりを演出しています。

グリーン車(1号車)の車内
グリーン車(1号車)の車内

座席は定員重視の2+2列配置ですが、見た目以上にゆったり感がある印象。クッションの沈み具合も、普通車とは差別化されています。また、ヘッドレストは同社在来線特急車では初となる可動式ピローを採用。前後位置を調整できる背面テーブル、フットレスト、読書灯、座面が沈み込むリクライニング機構など、普通車よりも多くの装備が備わっています。

可動式のヘッドレスト
可動式のヘッドレスト
背面テーブルは前後に位置を調整できます
背面テーブルは前後に位置を調整できます
グリーン車のフットレスト
グリーン車のフットレスト
背もたれには読書灯を内蔵
背もたれには読書灯を内蔵

一方の普通車は、明るい赤基調。「明るいワクワク感」をコンセプトに、沿線の紅葉や祭り、花火のイメージをグラデーションで表現しました。また、内壁は明るい茶色の木目調となっており、グリーン車とは印象が異なっています。

普通車(3号車)の車内
普通車(3号車)の車内
普通車の座席
普通車の座席

普通車およびグリーン車で共通の装備ですが、各座席の肘掛けにはコンセントを内蔵。荷棚はシースルー構造としています。また、車端部には大型荷物に対応した荷物スペースを設置。車内Wi-Fiの利用も可能です。

肘掛けにはコンセントを内蔵
肘掛けにはコンセントを内蔵
荷棚はシースルー構造
荷棚はシースルー構造

各車内扉上に設置する車内表示器は、フルカラー液晶ディスプレイを採用。停車駅案内やトイレ使用中などの表示のほか、後述するハイブリッドシステムの稼働状況の表示も可能です。ちなみに、試験先行車では車内表示器はフルカラーLEDとなっており、量産車で変更された点の一つとなっています。

3号車の名古屋方(東海道本線基準)には、3台分の車いすスペースが設けられました。2台は車いすに着席したまま、1台は車いすから座席へ移乗しての利用に対応しています。

3号車に設けられた車いすスペース
3号車に設けられた車いすスペース

デッキには、沿線地域の伝統工芸品を展示するスペース「ナノミュージアム」が設けられました。展示する工芸品は、「岐阜団扇」や「美濃和紙」など。車両ごとに異なる工芸品を設置しているということで、毎日同じ列車に乗った場合でも、やってくる編成によってさまざまな工芸品を楽しめるということです。

デッキ部に設けられる「ナノミュージアム」(左)
デッキ部に設けられる「ナノミュージアム」(左)

なお、先代のキハ85系では「ワイドビュー」の愛称が付いており、眺望に配慮して床面が一段高いハイデッカー構造となっていました。しかし、HC85系ではバリアフリー対策のため、低いホームに対応するためのドアステップがある他は、通常の床面構造となりました。ただし、窓の大きさ自体はキハ85系と同等値だといい、従来から変わらない展望を楽しむことができます。

高山本線の景勝地の一つ「飛水峡」を眺めるHC85系
高山本線の景勝地の一つ「飛水峡」を眺めるHC85系

乗車時に驚いたのが、車内チャイムの変更。これまではキハ85系や383系などで使われてきた、ファンからは「ワイドビューチャイム」というオリジナルのものが使用されてきました。HC85系ではこれに代わり、国鉄時代の気動車列車で使用されていた「アルプスの牧場」をアレンジしたものとなりました。広報担当者によると、どうやらHC85系ではこの「アルプスの牧場」のみの搭載となっているようです。

自動放送も「ワイドビュー」世代とは代わり、315系と同じ人物によるものに。ネット上では、この自動放送は合成音声では?と言われているようですが、広報担当者によれば、アナウンサーによる録音だということでした。

「ハイブリッド車両」としての乗り心地は?

HC85系は、JR東海では初めてとなる、ディーゼルエンジンとバッテリーの出力を組み合わせて走る「ハイブリッド車両」です。

従来のキハ85系では、エンジンを2台搭載していました。一方のHC85系は、エンジンは1台のみで、これは発電専用。エンジンの動力で発電した電力と、バッテリーに蓄えた電力で、モーターを回します。これによって、燃費は約35%向上。二酸化炭素排出量も約30%削減しました。

従来のキハ85系(右)とHC85系(左)。キハ85系は一般的な気動車です
従来のキハ85系(右)とHC85系(左)。キハ85系は一般的な気動車です

利用者の目線では、1エンジンのハイブリッド車両となったことで、静粛性の向上と、前後衝動が減少したことによる乗り心地向上が強く感じられます。

まず、キハ85系に対してエンジンが1両あたり1台減っているため、エンジンそのものの騒音や振動が減少しています。加えて、乗降用ドアが開いた際にはエンジンをアイドリングストップするほか、エンジンの車体への吊り方を変更することで、静粛性の向上を図っています。

また、従来の気動車では、エンジンの特性上、速度域に応じてギアを切り替える変速機が必要でした。この変速機によるギアチェンジの際に、どうしても加速が途切れてしまい、少なからず前後に揺られる現象が発生していたのです。電車やHC85系のようなハイブリッド車両ではギアチェンジの必要がないので、駅発車時などの乗り心地は明らかにHC85系の方が上となっています。

JR東海の車両課の方によると、HC85系では、エンジンは走行用の電力を供給するのみで、バッテリーの充電はもっぱら回生ブレーキのみが担っているということ。走行用電力を供給していない場面でエンジンを回してバッテリーを充電するJR東日本のハイブリッド車両とは、仕組みが異なるようです。

エンジン出力とバッテリー出力の両方で加速する様子の表示
エンジン出力とバッテリー出力の両方で加速する様子の表示

高山からの帰路ではキハ85系の特急「ひだ」に乗車しました。キハ85系は、乗り心地が悪い、というわけではありませんが、一般的なディーゼル車両であることに加え、デビューから30年以上が経過している車両であることもあり、HC85系には劣る様子。音もディーゼル特急らしい元気の良さで、鉄道ファンならともかく、一般利用者にとっては、HC85系の方が好まれそうです。高山の地元商店の方も「新型が楽しみ」と話しており、地元からの期待の高さもうかがえました。

HC85系は、7月1日から名古屋~高山間の特急「ひだ」2往復で運転。8月1日以降は1往復増え、3往復で運転される予定です。

また、試乗会で配布されたパンフレットには、現在のキハ85系と同じ、富山方面や大阪方面、特急「南紀」の紀伊勝浦方面も、走行路線図として記載されていました。JR東海の広報担当者によると、「これら方面での運転は、現時点では検討中」だといいますが、今後キハ85系が置き換えられれば、自然と運用範囲は拡大していくはずです。

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