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変わる、広まる、交通系ICカード 2021年春の新サービス

2021年4月10日(土) 鉄道コムスタッフ

2021年の春、交通系ICカードでさまざまな新サービスがスタートしました。

2001年11月にJR東日本の「Suica」サービスが始まってから、今年でちょうど20年。当初は都市部が中心だった交通系ICカードのサービスエリアは年々広まりを見せ、ついに2021年には東海道本線全線がICカード対応エリアとなりました。また、当初の乗車券・定期券機能から、ショッピング機能などのサービス追加が進み、今年には入場券代わりとなるサービスも始まりました。

ますます発展する、交通系ICカードのサービス。大きな変化となる、2021年春に始まったサービスをご紹介します。

Suicaが入場券代わりに

JR東日本では、3月13日にIC入場サービス「タッチでエキナカ」をスタートしました。交通系ICカードが入場券代わりとなるサービスで、同一駅の自動改札機を2時間以内に入出場する場合に自動的に適用。東京の「電車特定区間」各駅では140円、その他の各駅では150円を、ICカードのチャージ残高から自動精算します。

Suicaなどが入場券代わりに(イメージ)
Suicaなどが入場券代わりに(イメージ)

これまで、鉄道利用以外の目的で駅構内へ入場する際には、紙の「入場券」の購入が必要で、交通系ICカードでは入場券として利用することはできませんでした。今回のサービスの開始で、エキナカ施設を利用したい、あるいは自由通路ではなく駅構内を通って駅の反対側へ抜けたい、といった場合に、入場券を買う必要がなくなります。

なお、このサービスが利用できるのは、JR東日本が管理する、一般タイプの在来線用自動改札機のみ。扉が付いていない「簡易改札機」や、新幹線の改札機、私鉄が管理する改札機は対象外です。このため、東京メトロが管理する綾瀬駅での利用や、品川駅のJR在来線改札口から入場し、京急が管理する連絡改札口を通過して京急線ホームへ抜ける、という使い方はできません。

ところで、「定期券(定期乗車券)は入場券代わりになる」と考えている方がいらっしゃるかもしれませんが、これは本来は禁止された使い方。乗車券はその文字の通り「列車に乗車」するためのもの。旅客営業規則にも、「乗車券類は、乗車以外の目的で乗降場に入出する場合には、使用することができない」(JR東日本旅客営業規則 第147条6項)と記されています。

IC定期券サービスが新幹線で拡充

JR東海とJR西日本では、新幹線定期券「FREX」「FREXパル」を、交通系ICカードでも発売しました。

JR東日本では2003年より発売していた交通系ICカードの新幹線定期券ですが、東海道・山陽新幹線でもこれをようやく導入。新幹線の通勤・通学利用者も、在来線同様に定期券をタッチして乗車できるようになるほか、万が一定期券を紛失した場合でも、手数料を支払うことで再発行を受けることが可能となります。

東海道・山陽新幹線でも交通系ICカードによる定期券サービスが開始
東海道・山陽新幹線でも交通系ICカードによる定期券サービスが開始

また、在来線用のIC定期券で、有効区間中に新幹線の停車駅が2駅以上含まれる場合に利用できる「新幹線乗車サービス」を、東京~新岩国間で開始。該当する定期券の利用者は、新幹線特急料金をチャージ残高から差し引く形で、新幹線に乗車できるようになります。

これまでIC定期券ではJR東日本の首都圏、仙台、新潟の各エリア、JR東海の三島~岐阜羽島(岐阜)間に限られていたこのサービスですが、今回のエリア拡大で、在来線のICカード提供エリアを全てカバーするように(JR九州との並行区間を除く)。これによって、在来線のIC定期券の利用者でも、「帰りは新幹線で座って帰りたい」といった使い方ができるようになります。

黒磯から南岩国まで 広がるICカードエリア

JR東日本、JR東海、JR西日本の3社では、在来線のIC定期券発売エリアも拡大しました。

これまで、SuicaエリアとのTOICAエリア、またはTOICAエリアとICOCAエリアのそれぞれをまたがった形では、IC定期券を発行することはできませんでした。今回、JRの境界駅より1駅手前(函南駅、醒ヶ井駅)までとなっていたTOICAサービスエリアを、境界駅である熱海駅、米原駅へ延伸。2つのICカードサービスエリアをまたがった定期券でも、IC定期券の発行を可能としました。

また、サービスエリアが拡大したことで、熱海~沼津間や大垣~米原間といった区間でTOICAの利用が可能となるなど、定期券利用者以外にも恩恵が生まれています。これにより、首都圏から広島エリアまでがICカード対応エリアとなり、理論上は浪江駅や黒磯駅から南岩国駅までICカードによる在来線乗車が可能となりました。

2021年3月以降のTOICAエリア。熱海、米原の両駅までサービスエリアが拡大しました(画像:JR東海)
2021年3月以降のTOICAエリア。熱海、米原の両駅までサービスエリアが拡大しました(画像:JR東海)

ただし、今回のサービスエリア拡大は、定期券以外でも2つのICカードサービスエリアをまたがって利用できるようになった、というわけではありません。熱海駅では沼津方面での、米原駅では大垣方面でのICカード利用が可能となりましたが、たとえば小田原~熱海~沼津間というような、2つのエリアをまたがった利用は不可能。JR東海によると「技術的な限界」があり、今回はこのような形となったとしています。

そのため、熱海駅および米原駅には、TOICAの専用改札機が新たに設置されました。駅自体は同一ではありますが、TOICAエリアとSuica・ICOCAエリアを両駅で完全に分断することで、この問題を解決しています。

熱海駅の自動改札機。左側がSuica用、右側がTOICA用です
熱海駅の自動改札機。左側がSuica用、右側がTOICA用です

そして、この条件のため、2つのエリアをまたがるIC定期券では、エリアをまたがり、かつ定期券区間外に乗り越し、チャージ残高で精算するという利用はできなくなっています。

新たな交通系ICカードの形「地域連携カード」

3月21日には、ジェイアールバス関東宇都宮支店と関東自動車の路線バスで、「totra(トトラ)」のサービスが始まりました。

このtotraは、「地域連携カード」という新しい形の交通系ICカード。JR東日本とソニー、JR東日本メカトロニクスの3社が開発したもので、鉄道利用といったSuicaの機能と、バスの定期券や各種割引等の地域独自サービスの機能を、1枚のカードで実現するものです。Suicaのインフラを活用することでコストを抑え、かつ地方交通に求められるサービスが導入できるメリットがあります。

地域連携カード「totra」(画像:関東自動車)
地域連携カード「totra」(画像:関東自動車)

totraカードは、Suicaと同様に、無記名式と記名式を発売。記名式には大人用、小児用の設定がある点も、Suicaと同様です。totraではこれに加え、記名式の障がい者用カードも発売。totraエリア内に限りますが、自動的に制度割引運賃が適用されるカードとなっています。

独自の交通ポイント制度も設けています。利用した区間の運賃の2%がポイントとして還元されるもので、ポイントが溜まると利用時に自動的に運賃から差し引く仕組みです。また4月には、宇都宮市民を対象とした福祉サービスを開始。宇都宮市の事業として実施するもので、満70歳以上の市民には年1万ポイント、精神障がい者手帳交付者には最大で年1万2000ポイントを付与します。

もちろん、totraはSuicaとしての機能も有しています。チャージ残高でSuicaのほか全国の相互利用対象事業者の鉄道・バスに乗車できるほか、Suica定期券の書き込みに対応。記名式totraの利用者は、JR東日本グループの「JRE POINT」への登録も可能です。

totraは、2021年現在は一般路線バスのみがサービスエリアとなっていますが、2023年3月に開業する「芳賀・宇都宮LRT」でも利用可能となる予定です。

2023年開業を予定する「芳賀・宇都宮LRT」の車両(画像:宇都宮市)
2023年開業を予定する「芳賀・宇都宮LRT」の車両(画像:宇都宮市)

地域連携カードは、このtotraのほか、3月27日には岩手県交通が「Iwate Green Pass」としてサービスを開始。さらに、岩手県北自動車と、群馬、山形、青森、秋田の各県において、2022年春の導入が予定されています。

この春始まった新たなポイントサービス

JR東日本では、鉄道を利用することで、同社グループのポイントサービス「JRE POINT」が付与されるサービスを、3月に拡大しました。

3月1日には、チャージ残高での利用者向けサービス「リピートポイントサービス」がスタート。在来線の同一運賃区間をチャージ残高で月10回利用すると、運賃1回分相当のポイントを付与。さらに月11回以上の利用で、1回ごとに運賃の10%相当のポイントが付与されます。

リピートポイントサービスのイメージ(画像:JR東日本)
リピートポイントサービスのイメージ(画像:JR東日本)

運賃1回分相当の還元というと、従来の11枚つづりの回数券と同じです。ただし、JRの回数券では購入時に区間が指定されており、券面の区間以外ではもちろん割引にはなりません。

このリピートポイントサービスでは、東京~赤羽間、東京~蒲田間(ともにIC運賃220円)といった、別区間でも運賃が同じ区間を複数利用することで、ポイントが還元されます。近距離でよくJRを利用するけれど、同じ区間ばかりではない、という方では、回数券では得られなかった割引のチャンスがあります。

一方、このサービスでは同一運賃区間の利用が必要なため、東京~赤羽間(IC運賃220円)、東京~上野間(IC運賃157円)といったように、経路が重複していても運賃が異なる場合には、ポイント還元の対象とはなりません。

また、JR西日本においても、2018年より同様のポイントサービスを提供しています。なお、こちらは月11回以上の利用で1回ごとにポイントが付与されるもので、JR東日本とは異なり、10回目の利用時のポイント付与はありません。サービス開始当初は積算率10%となっていますが、9月1日以降は、積算率が15%となる予定です。

通勤利用者向けとしては、JR東日本が3月15日に、Suica通勤定期券利用者を対象とした「オフピークポイントサービス」をスタートしました。

このサービスは、平日朝の時差通勤を促すもの。中央線八王子駅では6:35~8:05といったように「ピーク時間帯」を設定し、その前後1時間に駅へ入場すると、ポイントが付与される仕組みです。積算ポイントは、ピーク時前が1日15ポイント、ピーク時後が1日20ポイントとなっています。

これらのポイントサービスは、事前登録(リピートポイントサービスはJRE POINTの会員登録とSuicaの紐づけのみ)すれば誰でも利用可能。積算したポイントは、ICカードへのチャージなどで使用できます。

JR東日本では、チャージ残高の利用でポイント(モバイルSuicaは50円1ポイント、カード版Suicaは200円1ポイント)を付与するサービスを、2019年に開始しています。また、JR西日本でも、平日日中と土休日における設定区間の利用で、30%または50%のポイントを付与するサービスを、2018年より実施しています。この春に始まった新たなサービスによって、ポイントサービスを活用した実質的な割引の幅が、さらに広まりを見せています。

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