3つの「初」を実現するJR九州の自動運転、何がすごい?

2020年12月23日(水) 鉄道コムスタッフ 西中悠基

JR九州は12月22日、香椎線にて自動列車運転装置の実証運転を実施すると発表しました。12月24日から当面の間継続する予定で、自動列車運転装置による車両制御の安定性や、運転取扱いの変更点における検証、運転士の心理的影響の把握を実施するといいます。

自動運転の実証運転を実施する香椎線
自動運転の実証運転を実施する香椎線

これまで新交通システム「ポートライナー」や、東京メトロ副都心線などでも、自動運転は実施されてきました。一方、今回のJR九州の自動運転では、3つの「初」があります。従来の自動運転とは、どこが異なるのでしょうか?

ATS路線では初めての自動運転

1つ目の「初」は、ATS設置路線における自動運転の実施です。

先に挙げたポートライナーや副都心線などは、保安装置に自動列車制御装置「ATC」を採用しています。一方、JR九州が自動運転を実施する香椎線の保安装置は、ATS-DK。自動列車制御装置「ATS」の一種が採用されている路線です。

ATCは、列車の速度制御に主眼を置いたもの。かつてはATS同様に速度超過時に列車を停止させるものや、ATS路線同様に信号機を建植するWS-ATCで建設された路線もありますが、近年導入されるATCは、運転席の速度計などに指示速度を表示するCS-ATCとなっています。

速度計の周りに指示速度を表示するCS-ATC(画像はゆりかもめ7500系の運転台)
速度計の周りに指示速度を表示するCS-ATC(画像はゆりかもめ7500系の運転台)

このCS-ATCでは、レールを通じて車両に連続で情報を伝達。走行可能な最高速度を常時現示し、これを超えた場合にブレーキを掛け、許容範囲内までに速度を落とします。また、先行列車や制限区間に接近した際には現示が変わり、自動で減速させます。

一方のATSとは、信号機の現示速度を超えて信号機を通過した際、列車にブレーキを掛ける装置。戦後開発された黎明期のATSでは、信号の暴進を防ぎ、列車を停止させることを目的としていました。そのため、信号現示などの情報は、信号機付近に設置された地上子が伝送していました。現在のJR線に設置されているATSの考え方も基本的には同じで、地上子を通過しなければ情報は更新されません。

なお、京浜急行電鉄などが採用するCS-ATSを始め、一部私鉄のATSでは、ATC同様、レールを経由して情報を連続伝送する機能を有しています。また、JRの都市部で整備されているATS-Pや、JR九州が整備を進めるATS-DKでは、地上子主体という点は変わらないものの、速度パターンを生成することで、列車速度を連続制御することができます。

JRの場合に限りますが、基本的には、ATCはレールから情報を連続で伝送するもの、ATSは地上子から情報を伝送するもの、と言えます。また、ATSでも安全性は確保されていますが、ATCではATSより高度な列車制御が可能で、安全性も上、という見方がかつては一般的でした。

ATCとATSの違い(画像:JR九州)
ATCとATSの違い(画像:JR九州)

国土交通省令「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」では、第58条で「動力車を操縦する係員が乗務しない鉄道に設ける自動運転をするための装置は、次の基準に適合するものでなければならない」とした「自動運転をするための装置」を規定。第2項には「列車間の間隔を確保する装置からの制御情報が指示する運転速度以下に目標速度を設定し、円滑に列車の速度を制御する等運転保安上必要な機能を有するものであること」という基準が示されています。

また、同省令の解釈基準では、「自動運転をするための装置(中略)は、自動列車制御装置(注釈:ATCのこと)を設けた鉄道に設けること」としています。そのため、これまで自動運転を導入してきた路線は全てATCで整備されており、逆にATSを設置した路線で自動運転を実施することはありませんでした。

自動運転について、JR九州では「『鉄道における自動運転技術検討会(国土交通省鉄道局)』での議論を踏まえつつ、今後も取り組みを進めていきます」としています。

踏切がある路線での自動運転も初

2つ目の「初」は、踏切がある路線での自動運転です。

これまで自動運転を実施してきた路線は、地下鉄や新交通システム、新規整備路線のため、全て線路と道路が完全に分離されていました。一方の香椎線は、踏切が多数存在する一般的な在来線。外部からの侵入を防ぐ柵も完備されてはいません。JR九州によると、このような路線での自動運転も初めてだということです。

運転士が乗務した形での自動運転を実施しているつくばエクスプレス。全線が高架または地下線で、踏切は設置されていません
運転士が乗務した形での自動運転を実施しているつくばエクスプレス。全線が高架または地下線で、踏切は設置されていません

もちろん、踏切があることで、自動車や歩行者との事故が発生する可能性もあります。JR九州では、実証実験期間中は添乗する運転士が、将来的には添乗係員が、異常時には緊急停止操作を取るとしています。

そして3つ目の「初」は、JR線での自動運転。かつて国鉄時代には新幹線での自動運転を試験したことがありましたが、これは実用化に繋がりませんでした。また、現在でも筑肥線と福岡市営地下鉄線、JR東日本の常磐線各駅停車と東京メトロ千代田線など、直通先路線が自動運転を実施しているため、JR車両に自動運転装置を搭載している例はあります。しかしながら、JR線内での自動運転による営業運転は、今回の香椎線の例が初となります。

なお、JR東日本では、常磐線各駅停車で2020年度末にも自動運転を開始すると発表しており、2021年10月には新幹線での自動運転実現に向けた実証実験も実施する予定です。

なぜ自動運転?

2020年に猛威を振るった新型コロナウイルスで鉄道各社は大きなダメージを受けていますが、JR九州ではそれ以前から、将来の経営状況に懸念がありました。設備の老朽化や、近年激化する災害への対応で、インフラへの投資の重要性は増す一方。また、少子高齢化による利用者での収入減少、従業員確保の困難化によって、金銭面でも人員面でも将来を不安視していました。

そこで、2019年に発表した中期経営計画に盛り込んだのが、「技術革新をとらえた事業の進化」。IoTの活用や運行管理のAI化、省人化などとともに、自動運転の実現を目指したのです。

JR九州では、将来的には「運転士以外の係員が前頭に常務する自動運転の実現」を目指すとしています。運転士になるには、国家資格である「動力車操縦者運転免許」の取得が必要になりますが、この取得を目指す教育には、多大な費用が掛かります。この乗務員を運転士ではなく「係員」とすれば、免許なしで乗務できる可能性があります。加えて、異常発生時には即座に停止操作を取れる体制を整えることで、コストと安全の両立を図るのが、JR九州の狙いのようです。

有人運転路線の自動運転化については、JR東日本も山手線で実証試験を実施しました。

「JR東日本グループ サスティナビリティリポート2019」によれば、山手線で実施した「ドライバレス運転」の試験は、「緊急時の対応などを考慮して係員が乗車する自動運転」を目指すもの。この点はJR九州と同一です。ただし、JR東日本が試験したシステムは、山手線のATCや運行管理装置を活用したもので、ATSをベースとしたJR九州のものとは別物です。

また、2020年にはJR西日本も大阪環状線で自動運転の試験を実施しています。こちらはATS-Pの速度制御パターンに合わせた自動運転プログラムを組んでおり、運転制御の構成要素については、香椎線に近いものとなっています。

鉄道の自動運転は、国際公共交通連合(UITP)によりGoA0からGoA4までの5段階でレベル分けされています。

これまで副都心線などで実施されてきた自動運転は、乗務員による自動運転開始などの操作が必要な半自動運転(STO)としてGoA2に、先頭部以外に乗務員が乗務する舞浜リゾートラインは、避難誘導などを担う添乗員付きの自動運転(DTO)としてGoA3に、ポートライナーなどの完全な自動運転(UTO)はGoA4に、それぞれ当てはまります。

自動運転のレベル分け(画像:国土交通省)
自動運転のレベル分け(画像:国土交通省)

JR九州が目指す自動運転は、GoA2とGoA3の中間、添乗員付き自動運転となるGoA2.5(UITPが定めたレベルではないもの)です。添乗員はGoA2の路線と同様に先頭部へ乗務しますが、添乗員は運転士に当てはまらないため、運転操作にあたる自動運転開始の操作はできません。添乗員には、舞浜リゾートライン同様の避難誘導の役目のほか、踏切などの異常時に列車を停止させる操作という役目が与えられます。

香椎線での実証試験は、12月24日に開始。JR九州では、運転士以外の係員が前頭に乗務する自動運転の実現まで継続し実施するとしています。また、当初は対象車両を1編成のみとし、実施区間も香椎~西戸崎のみとしていますが、将来的には対象車両の拡大、宇美~香椎間での自動運転実施なども目指すとしています。

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