N700Sの「確認試験車」が営業運転に就かない理由とは

2020年2月29日(土) 鉄道コムスタッフ

2月25日に報道陣へ公開された、東海道新幹線の新型車両「N700S」量産車第1編成であるJ1編成。今後は7月1日のデビューに向け、さまざまな準備が進められることとなります。

2月25日に公開された、N700S量産車の第1編成先頭車両
2月25日に公開された、N700S量産車の第1編成先頭車両

この量産車の登場に先立つ2018年には、N700Sの確認試験車として、J0編成が落成していました。JR東海によると、このJ0編成は今後も営業運転に就く予定は無いといいます。量産車に先立って1編成を製造し、その編成での営業運転を行わない理由とは何なのでしょうか。

2018年に登場した、N700S確認試験車のJ0編成
2018年に登場した、N700S確認試験車のJ0編成

N700系から前面デザインが変化した印象の強いN700Sですが、足回りも従来車より大幅に進化しています。主変換装置(制御装置)は、高速鉄道では世界初となるSiC素子の採用で、N700系初期車よりも大幅に小型・軽量化。台車やモーターにも新技術を採用し、軽量化や信頼性向上を図っています。

従来車両よりも大幅に小型・軽量化された主変換装置
従来車両よりも大幅に小型・軽量化された主変換装置

J0編成は、これら新技術の確認試験のため、2018年3月に走行試験を開始しました。また、同年9月からは、非常時の走行用に搭載する「自走用バッテリ装置」の試験を開始。当初は時速5キロ程度での走行性能でしたが、後に時速30キロ程度まで向上させました。

J0編成で試験が進められてきた「自走用バッテリ装置」。写真は量産車用のもの
J0編成で試験が進められてきた「自走用バッテリ装置」。写真は量産車用のもの

このような新技術の採用には、実際に車両に機器を搭載して試験するのが一般的です。多くの鉄道事業者では、試験車両は営業用車両を転用したり、営業中の車両に仮設していますが、JR東海では1編成16両をまるまる試験車両として製造し、技術開発を進めているのです。

そして、試験車両での成果を活かした量産車が登場した後も、技術開発は続けられます。2019年に廃車されたN700系の先行試作車は、量産車の落成後も営業運転に就くことなく、N700AやN700Sに導入された技術のテストベッド車両として使われてきました。N700Sの確認試験車はこの役割を引き継いで、将来の新幹線車両に採用される技術の開発に携わることとなります。

JR東海の歴代新幹線車両では、これまでにも量産車の製造に先立って試作的な車両が登場していました。

1992年3月に初代「のぞみ」用車両としてデビューした300系では、1990年に量産先行試作車としてJ0編成が製造されました。落成後は量産車の製造に向けた走行試験が進められ、フィードバックをもとに改善した量産車第1編成のJ2編成が、1992年に登場しました。

J0編成は、量産車落成後に一部の仕様を量産車と揃える改造を受け、編成番号もJ1編成へと改番。営業運転に投入されました。しかしながら営業列車で活躍した期間は短く、2000年に営業運転を終了。翌2001年からは試験用車両となり、新型ATCの導入に向けた試験や、N700系に導入する車体傾斜装置、全周ほろのテストなどに従事しました。

J1編成の廃車は2007年。東京方先頭車の322-9001が保存され、現在はリニア・鉄道館に展示されています。

リニア・鉄道館で展示されている300系J1編成の先頭車(右)。左の300系量産車(現在は撤去済み)とは意匠が異なっています
リニア・鉄道館で展示されている300系J1編成の先頭車(右)。左の300系量産車(現在は撤去済み)とは意匠が異なっています

1999年デビューの700系では、1997年に量産先行車のC0編成が落成していました。C0編成もJ0編成と同様、量産車の製造に向けた走行試験に従事。1999年に量産化改造を受けた後、C1編成に改番して営業運転に投入されました。

営業運転に就く700系量産先行車のC1編成
営業運転に就く700系量産先行車のC1編成

300系J1編成と異なり、C1編成は営業運転投入後、試験に従事することはありませんでした。廃車は2013年1月。部品取り用としてJR西日本に譲渡されたC4編成を除くと、700系初の廃車事例でした。こちらも博多方先頭車の723-9001が保存され、リニア・鉄道館で保存されています。

リニア・鉄道館で展示されている、700系C1編成の先頭車(左)と、300系J1編成の先頭車(右)
リニア・鉄道館で展示されている、700系C1編成の先頭車(左)と、300系J1編成の先頭車(右)

2007年にデビューしたN700系では、2005年に先行試作車となるZ0編成が製造されました。落成後は、300系や700系と同様に走行試験を実施。2年後に登場する量産車の製造に向けた課題点の洗い出しを進めました。

東海道新幹線で試運転中のN700系Z0編成
東海道新幹線で試運転中のN700系Z0編成

N700系量産車の落成は、2007年4月。第1編成はZ1編成として登場しました。先行試作車のZ0編成は量産化改造を受けることなく、引き続き試験車両として扱われました。その後は速度向上試験や、N700系の改良型であるN700A、そして次世代車両であるN700Sの開発に向けた試験を実施。2009年11月の試験時には、時速332キロを記録しました。また、量産車同様にN700Aタイプ化改造を受け、2014年に編成番号をX0編成へと改めています。

X0編成は、N700Sの確認試験車であるJ0編成と入れ替わりに、2019年1月に廃車されました。現在は、博多方先頭車の783-9001と、普通車・グリーン車の中間車各1両が、リニア・鉄道館に展示されています。

2019年よりリニア・鉄道館に展示されているX0編成
2019年よりリニア・鉄道館に展示されているX0編成

なお、これらの先行試作車に当たる各編成は、後に登場した量産車とは一部の設計が異なっていることがあります。300系のJ1編成では先頭部に膨らみがあるほか、前照灯や運転席窓の形が量産車と異なります。700系C1編成では、先頭部のノーズ長さが量産車よりも短くなっていました。N700系Z0→X0編成では、連結器カバー部分にも前照灯があったほか、製造当時は喫煙ルームではなく喫煙車の設定を想定していた、などの違いがありました。

今回登場したN700Sの量産車では、先頭車静電アンテナの形状がJ0編成登場時と異なる新型(2020年2月現在はJ0編成1号車でも装着)となっているほか、車内防犯カメラの数がJ0編成よりも増えているということです。

従来と異なる形の静電アンテナを装着したN700Sの量産車
従来と異なる形の静電アンテナを装着したN700Sの量産車

JR東海が製造した東海道新幹線の試験車両は、1995年に登場した955形「300X」が最初です。300系に次ぐ新幹線車両の開発に向けて製造された300Xは、その次代車両が700系として登場した後も試験を続け、300系J0編成の試験車両化と入れ替わる形で2002年に廃車されました。

将来の新幹線車両開発に向けて1995年に登場した「300X」。現在は博多方先頭車が米原の鉄道総合技術研究所 風洞技術センターに、東京方先頭車がリニア・鉄道館に保存されています
将来の新幹線車両開発に向けて1995年に登場した「300X」。現在は博多方先頭車が米原の鉄道総合技術研究所 風洞技術センターに、東京方先頭車がリニア・鉄道館に保存されています

将来の新幹線車両にフィードバックするため、長期的に試験を実施するテストベッド車両として登場した300X。その精神は、新たに試験車両となったN700SのJ0編成に受け継がれています。

アンケート

このリポート記事について、よろしければ、あなたの評価を5段階でお聞かせください。

鉄道コムおすすめ情報

画像

飯田橋駅新ホーム

工事が続いていたJR飯田橋駅。7月12日に新ホームと西口新駅舎が供用を始めました。変化した点などを紹介します。

画像

「etSETOra」10月デビュー

広島エリアを走る新たな観光列車「etSETOra」(エトセトラ)が、10月3日に営業運転を開始。

画像

新幹線・特急が50%割引

JR東日本の「お先にトクだ値スペシャル」。新幹線・特急が50%割引に。

画像

珍しい鉄道システムの数々

アプト式、ゴムタイヤ地下鉄、リニア……数ある鉄道システムの中から、日本唯一の事例をご紹介。

画像

新幹線の「特大荷物」持ち込み

5月から「特大荷物」の持ち込みが事前予約制となった東海道新幹線。夏休みシーズン前に、ルールをおさらいしましょう。

画像

7月の鉄道イベント一覧

夏の鉄道旅行や撮影の計画に、鉄道コムのイベント情報をご活用ください。