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東急田園都市線ホームドアの取りつけ工事を見る

2018年9月14日(金) レイルウェイ・ライター 岸田法眼

東京急行電鉄(以下、東急)では、2015年度より東横線、大井町線、田園都市線全駅のホームドア設置を進め、2019年度の完了を目指している。先日、田園都市線たまプラーザ駅2番線(上りホーム)でホームドアの設置作業が行なわれた。その模様をご紹介しよう。

上り終電発車後、回送列車が到着

某日、たまプラーザ駅へ降り立った。この駅の2番線でホームドアの設置作業が行なわれる。

ホームドアのうち、田園都市線の駅と大井町線の駅分の積み込み作業は、長津田検車区で行なわれる。取材対応していただいた、鉄道事業本部工務部 多摩川工事事務所の村上浩至(ひろし)課長補佐によると、以前は東横線駅のホームドア積み込み作業も長津田検車区で行なわれていたが、横浜市内の駅まで遠回り(大井町線大岡山駅経由)になることから、2016年以降は元住吉検車区に変更されたという。

ホームドアを載せた回送列車が到着。
ホームドアを載せた回送列車が到着。
計測に余念がない
計測に余念がない

0時45分、各駅停車鷺沼行き終電が発車すると、4分後に「当駅止り」の電車が到着。車内は乗客ではなく、ホームドアが載る回送列車だ。2番線では、作業員2人が列車とホームドア設置予定箇所の隙間を測っている。

0時53分、各駅停車長津田行き終電が発車すると、たまプラーザ駅の営業が終了。1時をまわると、多くの作業員が2番線に降りてゆく。リラックスしている様子で、張りつめた空気を感じない。

ホームドアを載せた車内の様子。
ホームドアを載せた車内の様子。

1時09分、回送列車の乗降用ドアが開く。車内へ入ると、床にはシートが敷かれていた。通路に置かれたホームドアが倒れないよう、梱包用のひもでしばり、万全盤石の態勢を整えている。ロングシートやフリースペースをダンボールで覆い、車内に傷がつかないよう配慮している。

1時29分、作業開始。作業員は約80人で、1両あたり約8人で作業をこなす。以前は約100人で工事にあたっていたが、現在は約80人でパパッとできるという。

車内に載せたホームドアを降ろす。
車内に載せたホームドアを降ろす。

まず作業員がホームに貼っていたシールをはがすと、ホームドアを据えつけるための基礎ベースが姿を現す。その後、1両につき1か所、乗降用ドアの両脇に緩衝材を巻き、床に鉄板やマットを敷いてホームへの“架け橋”にしたあと、3人がかりでホームドアを慎重に降ろす。また、軽い部品は作業員が持って、別の乗降用ドアから降りてゆく。

1時41分には、すべての搬出が終わった。作業員は車内に敷いたシートの撤去、ダンボールの覆う位置を車外に変え、こちらにも傷がつかないよう配慮している。

ホームドアの幅

ホームドアを支える絶縁プレート。
ホームドアを支える絶縁プレート。

1時50分、ホームドアの設置工事を開始。チェーンブロックや棒などを使い、慎重かつ丁寧に設置してゆく。

田園都市線のホームドアは開口幅が広い。
田園都市線のホームドアは開口幅が広い。

ホームドアの幅は大井町線と同じ2890ミリで、東横線の2480ミリ、目黒線の2000ミリとは異なっている。

その理由は東横線、目黒線はTASC(Train Automatic Station stop Control:駅定位置停止装置)が整備されているのに対し、田園都市線、大井町線は未整備のためだ。運転士が停車しやすいよう配慮しているほか、車両によってドアピッチ(乗降用ドアと乗降用ドアの間隔)が異なるので、現役全車両の停車に対応している。例えば東武鉄道30000系の場合、10両分割編成(1~4号車は4両編成、5~10号車は6両編成)なので、4・5号車の扉位置が他の車両と異なる。

5両編成の停止目安位置を示す青のシール。
5両編成の停止目安位置を示す青のシール。
7・10両編成の停止目安位置を示す黄色のシール。
7・10両編成の停止目安位置を示す黄色のシール。

東急では、運転士の負担を軽減するため、ホームドアの外側に停止目安位置を示すカラーシールを貼っている。田園都市線の場合、大井町線直通列車の5両編成は青、7両編成は赤で示している。たまプラーザ駅2番線の場合、7・10両編成の停止目安位置が同じなので、黄色のテープを貼る。

ホームドアの設置により、乗務員へのバックアップも強化。
ホームドアの設置により、乗務員へのバックアップも強化。

今回はホームドアの設置工事と並行し、車掌用のカメラの増設、モニタの調整も行なわれた。ホームドアを設置すると、車掌の視覚も変わるため、画角を調整しなければならないという。今回の工事では、車掌数人も立ち会っている。

約2時間で設置完了

”常に快適な車内”を乗客に提供するために。
”常に快適な車内”を乗客に提供するために。

ホームドアの設置後、順次ホームドアの開閉具合を手動でチェックするほか、車内では作業員1人が手すりをふき、テープの接着跡を取り除く。ホームドア運搬の回送列車が、そのまま始発列車として営業運転に就くことがあるという。

突然のホームドア出現に驚いた乗客も多いのでは。
突然のホームドア出現に驚いた乗客も多いのでは。

設置作業は3時40分頃に終了。後日、配線の接続、戸先やセンサーの調整などを行ない、9月中旬の供用開始を予定している。

4時間11分停車した回送列車が、まもなく発車。
4時間11分停車した回送列車が、まもなく発車。

隣の鷺沼駅は上下線とも始発列車が5時早々に発車する関係で、回送列車は2番線に停車したまま。そして、夜が明けた5時00分、回送列車が発車。鷺沼駅で折り返し、長津田検車区に戻るだろう。2番線では一部の作業員がホームを巡回するほか、駅員がホームドアにQRコードつきのドアステッカーを貼りつけていた。

画像解析型による転落検知支援システム

東急は、事故や犯罪を防ぐため、様々な施策を行なっている。2017年から画像解析型による転落検知支援システムを導入。実証実験ののち、このたび正式な運用にこぎつけた。

東急が進める安全対策

本題の前に東急では、安全安定輸送に向けた諸施策として、3つを進めているので、先にご紹介しよう。

①ホームドア(可動式ホーム柵)の整備

目黒線は開業時(目蒲線の分割に伴うもの)にホームドアが整備されたほか、東横線の渋谷地下駅も東京メトロ副都心線開業時に設置された。

2013年度以降は東横線、大井町線、田園都市線の全駅でホームドアの整備が進められており、2019年度に完了する予定だ。ホームドアの設置が進むとともに、人身傷害件数も減少している。

ほか、18メートル3ドア車で運行する東急多摩川線、池上線は、センサーつきホーム柵を設置している。

なお、こどもの国線、世田谷線は上記の対象外である。

②車内防犯カメラの設置

テロ行為などの未然防止のほか、吊り手の盗難なども発生したことから、2015年3月からより順次設置を進めている。

2018年7月末時点、田園都市線用車両5編成、大井町線用車両17編成、池上・東急多摩川線用車両18編成、世田谷線用車両10編成に設置されている。2020年度には更新予定車両を除く全編成の設置が完了するという。

③3D式障害物検知装置の設置

東横線、目黒線、大井町線、東急多摩川線では、自動車の通行が可能なすべての踏切を対象に、レーザー式もしくは3D式の障害物検知装置を設置した。3D式はレーザー式に比べ、踏切全体を立体的に検知できる。

今後は世田谷線、こどもの国線、構内踏切を除くすべての踏切に、3D式障害物検知装置を導入し、2022年度に完了する予定だ。

田園都市線鷺沼駅に画像解析型による転落検知支援システムを導入

ホームドアの設置予定が2019年度の田園都市線鷺沼駅では、2018年8月8日に画像解析型による転落検知支援システムの運用を開始した。

駅構内の監視カメラは更新が進められている(右側が新型)。
駅構内の監視カメラは更新が進められている(右側が新型)。

東急によると、2017年4月頃から、既設の駅構内カメラを使って、ホームの安全対策強化策を検討。パナソニックの協力を得て、11月、画像解析型による転落検知支援システムの実証実験を開始した。

検知対象物は白枠、危険エリアは赤枠で表示される(白枠の人は東急社員)。
検知対象物は白枠、危険エリアは赤枠で表示される(白枠の人は東急社員)。
異常が発生すると、駅務室内の監視端末で状況を確認する。
異常が発生すると、駅務室内の監視端末で状況を確認する。

このシステムは機器室に設置された監視端末モニタの右側に映し出される人、車椅子、ベビーカーを検知対象物として白枠、ホーム下の線路を危険エリアとして赤枠に設定した。検知対象物が転落すると白枠から赤枠に変わり、駅務室内に設置された監視端末横のパトランプからアラームを発報し、非常を知らせる。

駅係員はただちに監視端末モニタの左側で検知対象物の転落等を確認後、必要に応じて列車の運転停止を運転司令所に手配する。従来の転落報知器に比べ、早期に対処できるため、人身事故の防止にもつながる。

なお、このシステムの運用とデータの管理は東急が行ない、パナソニックは画像解析技術の提供のみを行なう。

鷺沼駅に導入した理由

鷺沼駅の実証実験で良好な結果を得て、本運用を開始した。しかし、稼動しているのは、上りホームのみで、なおかつ21時以降だ。

これには理由があり、四六時中稼働すると、線路上で点検等を行なう作業員が「転落した」とみなされてしまうこと、ラッシュ時や日中の監視は駅係員で充分に目が行き届くことが挙げられる。一方で21時以降は、上りホームを利用する人が少なく、なおかつ、乗客や駅員とも人の目でカバーしきれないそうだ。

また、鷺沼駅に導入したのは、ホームドアの整備が2019年度になること、2017年度に転落事故が3件発生したからだという。

東急によると、今後、他駅の拡大については未定としている。

導入拡大に期待

鷺沼駅にホームドアが設置されると、このシステムを使わなくなる可能性がある。しかしながら、ホームドア設置後も継続や他駅拡大の必要はあるだろう。

その理由は、東急のホームドア設置駅に可動ステップを設置する予定がないこと。東京メトロでは一部の駅に可動ステップを設置し、列車とホームのあいだの隙間を縮めている。列車とホームの隙間を埋める「転落防止ゴム」を設置しているとはいえ、ホームドア設置後も列車の停車中に転落事故が発生する恐れがあるからだ。

東急のホームドア設置費用については、自社負担、補助金交付のふたつに分かれている。ホームの補強工事メニューに可動ステップ設置が加わると、費用が大幅にかかってしまう。

ホームドア設置後、列車とホームのあいだが空いている駅を中心に転落検知支援システムの導入を進めるべきだろう。また、ホームドアはハーフハイトタイプなので、人が故意に飛び越えることもできるのだから、全駅の設置に期待したい。

【取材協力:東京急行電鉄】

岸田法眼

レイルウェイ・ライター。「Yahoo!セカンドライフ」(ヤフー)の選抜サポーターに抜擢され、2007年にライターデビュー。以降、「鉄道のテクノロジー」(三栄書房)、「鉄道ファン」(交友社)、「WEBRONZA」(朝日新聞社)、「@DIME」(小学館) などに執筆。また、好角家の側面を持つ。著書に「波瀾万丈の車両」(アルファベータブックス)がある。

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