特急列車や観光列車向けの車両では、進行方向を向く形で座ることができるクロスシートなどの座席があります。一人または二人で乗車する場合、進む向きに着席すれば、起点から終点まで変わらないのが大勢。グループ旅行ではクロスシートを向かい合わせる形で使うこともあるため、人によっては進行方向と逆向きの席につく場合もありますが、はじめから向きがわかっている分には違和感なく過ごせることでしょう。
ところが複数の路線を直通する列車などでは、路線が変わる途中の駅で折り返すようにして先に向かうケースもあるため、気が付くと逆の向きに走り始めていたということも。今回はそうした例のうち、回転式、転換式といったクロスシートのある特急列車、観光列車をメインに、定期的に運転、または決まった曜日に運行されるものを紹介します。
反転してもあまり気にならない特急列車・・・「富士回遊」「アルペン特急」「メトロえのしま号」
その列車の最長区間の営業キロをもとに、途中で向きが変わる区間がどれだけあるのかを算出したところ、最も少ない率になった特急列車は、「富士回遊」でした。新宿~富士山間の101.1キロに対し、逆向きになる富士山~河口湖間はわずか3キロ。逆になるパーセンテージを仮に「座席反転率」として計算すると2.9%でした。向きが変わってもまず気になることはないでしょう。
次に反転率が低いのは、富山地方鉄道の「アルペン特急」の宇奈月温泉→立山間。順方向で走る区間が宇奈月温泉~上市間、寺田~立山間の計64.2キロ、逆転するのが上市~寺田間の3.5キロということで、率は5.2%になります。使用車両の16010形、20020形は転換可能な座席もあるため、進行方向にあわせてアレンジ可能ではありますが、向きが変わる駅が上市と寺田の2つあるため、その都度変える手間を考えるとそのままでも良さそうです。
3番目は、小田急電鉄の特急ロマンスカーのうち、北千住~片瀬江ノ島間を結ぶ「メトロえのしま号」の5.9%。北千住~藤沢間が71.2キロ、藤沢~片瀬江ノ島間が4.5キロなので、向きが変わっても気にならないレベルと言えます。そうした点を見越して、片瀬江ノ島駅からの座席の向きははじめから反転しているのがポイント。こうした逆向き設定は、秋田新幹線「こまち」の秋田~大曲間、特急「ひだ」の名古屋~岐阜間などでも見られます。両列車の反転率はそれぞれ7.8%、11.8%。「ひだ」に関しては名古屋~高山間で計算すると反転率は18.2%に上がります。
前述のほかに反転率が低い特急の例としては、「みどり」(博多~早岐~佐世保間)の7.6%、富士山麓電気鉄道の「富士山ビュー特急」「フジサン特急」(大月~富士山~河口湖間)の11.3%などが挙げられます。
車内での食事などがついた事前予約制の列車も対象に加えると、西日本鉄道の「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」でも反転率が低い設定があります。「金曜の旅ランチ」の運転区間は、西鉄福岡(天神)~西鉄二日市~太宰府~西鉄二日市~大牟田ですが、太宰府線に入る際に西鉄二日市駅で反転するため、西鉄二日市→太宰府間(2.4キロ)が逆方向に。全行程は79.6キロになるため、その率は3%となります。
行ったり来たりの行程がある観光列車としては、えちごトキめき鉄道の「えちごトキめきリゾート雪月花」もあります。基本的なルートは、上越妙高~妙高高原~直江津~糸魚川ですが、順方向を上越妙高~妙高高原間、直江津~糸魚川間とすると、逆方向が妙高高原~直江津間となり、距離は計66.1キロに対しての37.7キロに(反転率は36.3%)。仮に妙高高原~直江津~糸魚川間の運行であれば、直江津駅で反転するだけなので計算もシンプルになり、その場合の順逆の比率は概ね半々です。もっとも、こうした観光列車タイプの車両では、車窓に面した席や進行方向を問わないテーブル席などが多く配されているため、向きの変化が気になることもあまりないでしょう。
向きが気になる方は注意したい・・・遠軽駅、飯能駅、姫路駅
座席の反転率が高い列車についても見てみましょう。最も高かったのは旭川~網走間を走る特急「大雪」の47.6%で、遠軽駅をはさんで順方向も逆方向もほぼ同じ。毎日運転する定期列車でこれに次ぐのは西武鉄道の特急「ちちぶ」(43.1%)でした。飯能駅を過ぎてからも一定の距離を走るので、向きが気になる方は周囲に配慮しつつ転換するといいと思います。「ちちぶ」に次ぐ定期特急では、鳥取~姫路~大阪間の「はまかぜ」が41.7%となっています。
JR東日本の「のってたのしい列車」でラインナップされている中から挙げると、南小谷~松本~長野間の「リゾートビューふるさと」が47.2%、「ひなび(陽旅)」編成による大湊~野辺地~八戸間の「ひなび下北」が46.8%、「越乃Shu*Kura」編成では、上越妙高~長岡~越後湯沢間の「ゆざわShu*Kura」が46.1%など。一部の木曜を除いて運転される近畿日本鉄道の観光特急「あをによし」(京都~近鉄奈良~大阪難波間)は、45.7%でした。なお、「リゾートビューふるさと」では、姨捨駅などでスイッチバックもあるため、向きが変わる回数は多め。スイッチバックにより方向が複数回変わる特急列車としては、豊肥本線を走る「九州横断特急」「あそ」なども挙げられます。
特急列車、観光列車などの座席反転率一覧
運転本数・頻度が多い列車ほど、どこまでが順方向でどこからが逆方向か、その割合がどの程度かについては、知っておくと便利でしょう。JRの特急では、米原駅で向きが変わる「しらさぎ」(名古屋~敦賀間、反転率36.5%)、小倉駅で逆方向になる「ソニック」(大分~博多間、同33.6%)がその一例。主に高松~徳島間で走る「うずしお」も本数多めの特急列車ですが、上下各2本と少数ながら岡山駅発着の設定があります。それらは途中、宇多津駅、高松駅で向きを変えます。定期特急列車で進行方向が2回変わるのは、岡山~徳島間の「うずしお」のみ。全区間乗った場合、反転率は17.7%です。
列車名 | 主な運転区間 | 折り返す駅 | 反転率 |
---|---|---|---|
こまち | 東京~秋田間 | 大曲駅 | 7.8% |
オホーツク | 札幌~網走間 | 遠軽駅 | 30.2% |
大雪 | 旭川~網走間 | 遠軽駅 | 47.6% |
富士回遊 | 新宿~河口湖間 | 富士山駅 | 2.9% |
ひだ(富山駅発着) | 名古屋~富山間 | 岐阜駅 | 11.8% |
ひだ(高山駅発着) | 名古屋~高山間 | 岐阜駅 | 18.2% |
ふじかわ | 静岡~甲府間 | 富士駅 | 27.8% |
しらさぎ | 名古屋~敦賀間 | 米原駅 | 36.5% |
はしだて | 京都~豊岡間 | 宮津駅 | 33.1% |
まいづる | 京都~東舞鶴間 | 綾部駅 | 25.7% |
はまかぜ | 大阪~鳥取間 | 姫路駅 | 41.7% |
スーパーいなば | 岡山~鳥取間 | 上郡駅 | 37.9% |
うずしお (6・13・22・29号) |
岡山~徳島間 | 宇多津駅、高松駅 | 17.7% |
みどり | 博多~佐世保間 | 早岐駅 | 7.6% |
ソニック | 博多~大分間 | 小倉駅 | 33.6% |
にちりんシーガイア | 博多~宮崎空港間 | 小倉駅 | 16.3% |
ふたつ星4047 (有明海コース) |
武雄温泉→長崎間 (長与経由) |
江北駅 | 12.9% |
列車名 | 主な運転区間 | 折り返す駅 | 反転率 |
---|---|---|---|
リゾートビューしらかみ | 秋田~青森間 | 川部駅、弘前駅 | 2.5% |
SATONO | 郡山~喜多方間 | 会津若松駅 | 20.4% |
ひなび下北 | 八戸~大湊間 | 野辺地駅 | 46.8% |
ひなび釜石 | 盛岡~釜石間 | 花巻駅 | 28.1% |
越乃Shu*Kura | 上越妙高~十日町間 | 長岡駅 | 34.6% |
ゆざわShu*Kura | 上越妙高~越後湯沢間 | 長岡駅 | 46.1% |
リゾートビューふるさと | 南小谷~長野間 | 松本駅 | 47.2% |
会社名 | 列車名 | 運転区間 | 折り返す駅 | 反転率 |
---|---|---|---|---|
東武鉄道 | SL大樹「ふたら」72号 | 東武日光→鬼怒川温泉間 | 下今市駅 | 36.4% |
西武鉄道 | ちちぶ | 池袋~西武秩父間 | 飯能駅 | 43.1% |
小田急電鉄 | えのしま、ホームウェイ | 新宿~片瀬江ノ島間 | 藤沢駅 | 7.5% |
小田急電鉄・ 東京メトロ |
メトロえのしま | 北千住~片瀬江ノ島間 | 藤沢駅 | 5.9% |
近畿日本鉄道 | あをによし | 京都~大阪難波間 | 近鉄奈良駅 | 45.7% |
西日本鉄道 | THE RAIL KITCHEN CHIKUGO (金曜の旅ランチコース) |
西鉄福岡(天神) ~大宰府間 |
西鉄二日市駅 太宰府駅 |
3.0% |
富士山麓 電気鉄道 |
富士山ビュー特急 フジサン特急 |
大月~河口湖間 | 富士山駅 | 11.3% |
えちご トキめき鉄道 |
えちごトキめきリゾート 雪月花 |
上越妙高~糸魚川間 | 妙高高原駅 直江津駅 |
36.3% |
富山地方鉄道 | アルペン特急 | 宇奈月温泉→立山間 | 上市駅 寺田駅 |
5.2% |
京都丹後鉄道 | 丹後くろまつ号 (モーニングコース) |
福知山→天橋立間 | 宮津駅 | 12.6% |
有料特急や観光列車のほかにも、ライナー列車などで向きが変わるものはあります。クロスシート車、セミクロスシート車が使われている区間では、普通列車で該当する例もあります。外出先、旅先で偶然にそうした列車に乗り合わせたら、それも一興だと思います。