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助川康史の「鉄道写真なんでもゼミナール」

「編成写真」や「風景写真」でもない鉄道写真「鉄道イメージ写真」を撮ろう

2022年7月2日(土) 鉄道カメラマン 助川康史

時代と共に鉄道写真の表現は変わる

昭和中期の鉄道写真といえば、編成写真のような「ガチ鉄」写真が主流でした。それは写真の本質である記録的要素を生かした新聞や雑誌、広告などの業務・商業的な使用が主だったからだと私は思います。

そして蒸気機関車の引退が始まった昭和40年頃、レイルファンだけでなく、多くの人が消えゆく煙を追い続けました。「SLブーム」です。折りしも日本は高度経済成長期のピークだったこともあり、フィルムカメラや動画用の8ミリカメラが個人に普及した時代でもあります。おかげで編成写真だけでなく、風景写真や流し撮りなど、撮影者の思い思いの形で全国各地の蒸気機関車の雄姿が数多く残されました。

時は移り、デジタルカメラが普及した現代、SNSで個人の作品がより多くの人に配信できるようになり、より個性的でイメージ的な鉄道写真を見ることができるようになりました。鉄道写真は写真表現の一つとして、芸術性を高めた写真分野へと進化してきたのです。

芸術性を持った「鉄道イメージ写真」
芸術性を持った「鉄道イメージ写真」

ということで、今回は鉄道写真の芸術的表現である「鉄道イメージ写真」についてお話していきたいと思います。

表現にルールはない。それが「鉄道イメージ写真」

「助川康史の『鉄道写真なんでもゼミナール』」では、編成写真や流し撮り、鉄道風景写真の撮り方もお伝えしてきました。それぞれの写真表現の撮り方にはいくつかの法則やルールがあり、それに沿って撮影することで、写真をよりよく見せることにつながりました。

それに比べると、鉄道イメージ写真は表現の自由度が高く、他の撮り方のルールに沿うどころか、思いっきり打破することが重要になってきます。もちろん、闇雲にやたらめったら撮るというわけではありません。「こんな写真が撮りたいな」「この車両にはこんな表現が似合うだろうな」という「想像」の引き出しを多く作っておくことが大切です。いざその場面に出会ったときに、その引き出しの多さがとても役に立つのです。

でも「引き出しなんてどう増やせばいいの?」という方もいらっしゃるかもしれません。続いては、その引き出しを増やすためのヒントを、いくつかご紹介していきましょう。

車両の特徴と迫力を伝える「車両アップ写真」

生粋のガチな鉄ちゃんであるほど、鉄道写真の基本である編成写真をよく撮ります。それは、鉄道車両をこよなく愛するが上に、その雄姿を美しく残しておきたいというコレクター的な気持ちがあるからではないでしょうか。

かく言う私も、物心つく前(?)から鉄道好きだった「ガチ鉄」で、大学生までは編成写真などの車両中心の写真を多く撮っていました。時には鉄道風景写真も撮ろうと思ったのですが、どうしても編成写真寄りになってしまい、もったいないことをしたなと、今でも思うことがあります。

そんな鉄道車両好き、編成写真好きな方におすすめしたいのが「車両アップ写真」です。

車両の一部を大きく切り取る「車両アップ写真」
車両の一部を大きく切り取る「車両アップ写真」

車両アップ写真の撮り方は編成写真に非常に近いですが、編成写真は列車が先頭から最後尾まできっちりフレーム内に収めるのに対し、車両アップ写真は車両や編成の特徴的な部分を大きく切り取り、背景などを極力少なくする撮り方です。人物写真に例えると、編成写真が証明写真で、車両アップ写真はポートレート写真という感じでしょうか。記録的要素が強い編成写真に対し、車両や編成を部分的に切り取ることで、列車の迫力や格好良さを一段と際立たせることができます。

撮影のコツですが、直線よりもカーブで先頭車が正面を向く場所が適しています。そして列車の正面をとらえるべく、レンズは300mmの望遠レンズから、時には1000mm近い超望遠レンズを使います。

とらえる列車は、先頭部の足回りと列車側面がややフレームアウトするくらいにしましょう。このフレーミングは編成写真が好きな方ほど勇気がいると思います。しかし少しでも構図的に緩めてしまうと、途端に中途半端な写真になってしまいます。「攻め」の意識を常に持ち、大胆に切り取りましょう。一度撮れるとしめたもの。車両アップ写真の魅力にはまり、次からはより積極的に撮影できること、間違いなしです。

また、列車の側面や台車など、部分的にとらえる車両アップ写真もフォトジェニックな作品になります。こちらも車両先頭部アップと同様に、説明的にならないような構図にするのが大切です。自分が車両のどこに注目し、どう表現したいのか、見ている人にもダイレクトに伝わる明確な主張をもって撮影しないと、作品の力も弱くなってしまいます。

外を走る列車は桜や緑のアクセントを入れると素晴らしい雰囲気に仕上がりますし、駅に停車する車両は、ドアの開閉状態を示す「車側灯」の赤い光が旅情を搔き立てます。「車両の一部分+その他の印象的な被写体」という構成を考えて、撮影に挑戦してみましょう。ファインダーを覗きながら詩的なフレーズが頭の中に浮かんで来たら最高です。

列車と風景の両方が主役!?「風景流し」

「風景流し」といっても、流れゆく車窓風景を眺める訳ではなく、ましてやプロレス技でもありません(笑)。鉄道風景写真のような構図で「流し撮り」をすることです。

通常、鉄道写真の「流し撮り」は、列車の疾走感を表現するために使う撮影方法で、自然と車両が大きめな構図になります。しかし、流し撮りという技法は、その構図だけのものではありません。鉄道風景写真のように、風景の中に車両が小さく入るような構図でも効果的です。

風景写真のような流し撮り「風景流し」
風景写真のような流し撮り「風景流し」

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考え方は通常の流し撮りとほとんど変わりませんが、風景的な構図になる分、空が多く入ってしまうと流し撮りの効果は薄れてしまいます。森の中の線路を俯瞰できる場所だったり、列車の背景にマンションや住宅群がびっしり並ぶような場所を探すと良いでしょう。綺麗な「風景流し」が撮れる撮影地候補になる可能性があります。

次回、助川康史の「鉄道写真なんでもゼミナール」は少し趣向を変えて「プロ鉄道写真家というお仕事」と題して、鉄道写真家の仕事や撮影スタイルについてお話をしたいと思います。どの程度書いて大丈夫か、私も手探りではあります(笑)。どうぞご期待ください!

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