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E4系いよいよ引退! オール2階建て新幹線の新型車両が登場しない理由

2021年9月25日(土) フォトライター 栗原景

E4系の引退が、いよいよ間近に迫ってきました。これは、1985年10月1日の東海道新幹線100系電車デビュー以来、36年にわたって走り続けてきた2階建て新幹線車両の終焉をも意味します。

10月1日に定期運用を終了するE4系
10月1日に定期運用を終了するE4系

E4系と、その前身であるE1系は、限られた線路容量を活用し、大量の通勤・通学輸送をこなすために導入された2階建て仕様でした。しかし、E4系の後継車両は計画されておらず、上越新幹線は近い将来、全列車がE7系で運行される見込みです。

新幹線通勤の需要は今も十分ありますが、なぜ2階建て車両は姿を消すのでしょうか。その理由は、大きく分けて3つあります。

理由1:車体の大きさ故にトンネルドンを解消しづらい

まず第一に、スピードの問題です。E2系とE7系の営業最高速度が時速275キロであるのに対し、E4系は時速240キロに抑えられています。もちろん、オール2階建て車両でも、時速275キロで走行することは技術的に可能です。しかし、2階建て車両は車体断面が大きいために、騒音・振動の環境基準(原則として住宅地では70デシベル以下、その他の地域では75デシベル以下)をクリアすることが難しくなります。

特に問題となるのが、トンネル突入時の騒音です。前回も紹介しましたが、高速で走行している列車がトンネルに入ると、トンネル内の空気が圧縮されて反対側から押し出され、微気圧波、通称「トンネルドン」と呼ばれる爆発音を発生させます。これを防ぐために、新幹線は車両の先端をくさび状に尖らせて、トンネル内空気の圧縮を抑え、トンネルドンを低減させています。

トンネル微気圧波対策として、複雑な先頭形状となったE5系
トンネル微気圧波対策として、複雑な先頭形状となったE5系

ところが、2階建て車両は車体断面が限界いっぱいまで拡大されており、特に高さはE7系の3650ミリに対し、E4系は4485ミリと835ミリも高くなっています。トンネルと車体の隙間が小さいためにトンネル内の空気をより強く圧縮してしまい、微気圧波を抑えることが難しくなります。

2階建て車両は車体断面が大きいため、トンネル微気圧波という観点では平屋車両よりも不利だ
2階建て車両は車体断面が大きいため、トンネル微気圧波という観点では平屋車両よりも不利だ

ノーズをさらに長くすれば、あるいは時速275キロで環境基準をクリアできる可能性があります。しかし、その場合は先頭車の定員が少なくなり、あるいは両先頭車のみ平屋建てになってしまうかもしれません。8両編成のうち2両を平屋とするなら、2階建て車両を開発する意味は減ってしまいます。

理由2:乗降にどうしても時間がかかる

2つ目の問題が、乗降に手間がかかることです。新幹線の乗降扉が各車両2か所ずつであるのはどの形式も同じですが、E4系の場合、1階席と2階席、さらに一部の車両には車端部にFL席と呼ばれる平屋の客室があります。都合3方向からの乗客が1つの乗降扉に集まるので、渋滞が発生しやすくなります。

2階建てという構造上、乗り降りに時間が掛かる(イメージ)
2階建てという構造上、乗り降りに時間が掛かる(イメージ)

また乗車時も、特に自由席では乗客に「どのフロアに行くか」迷いが生じ、客室に入るまでの時間が数秒ずつ遅れがちです。この小さな遅れが積もり積もって、列車の遅延につながっていくのです。乗降時の渋滞を緩和するため、他の形式が700ミリ程度なのに対し、E4系の乗降扉の幅は先頭車の一部を除き1003ミリと広くなっています。しかし、これも根本的な解決にはなりませんでした。

他の形式(右)よりも乗降扉が広いE4系(左)
他の形式(右)よりも乗降扉が広いE4系(左)

理由3:2階建て車両がなくても十分運ぶことができる

そして3つ目、最大の問題が、新しい2階建て車両を導入しなくても、当面無理なく輸送需要を満たせるということです。

表1は、2015年3月、北陸新幹線金沢開業時の平日、東京駅到着始発から9時過ぎまでの、高崎→東京間における自由席の供給数です。全14本(Maxとき300号とMaxたにがわ300号は併結)のうち8本がE4系で、しかもそのうちの6本は16両編成”ダブルMax”、さらにうち5本は、普通車全車自由席です。通勤・通学輸送で使用される自由席の座席供給数は1万2001席。まさに、E4系の大量輸送力をフル回転しての輸送でした。

E4系を2編成連結すると、定員は1634人。新幹線史上最大となる
E4系を2編成連結すると、定員は1634人。新幹線史上最大となる
2015年3月の高崎~東京間における自由席供給量
2015年3月の高崎~東京間における自由席供給量

次に、表2を見てみましょう。こちらはE4系が引退した直後の2021年10月4日、平日の同区間・同時間帯の自由席供給量です。2階建て車両はなくなりましたが、15本の列車で座席供給数は1万311席。E4系16両編成1本分ほどしか減っていません。

E4系引退直後、2021年10月4日の自由席供給量
E4系引退直後、2021年10月4日の自由席供給量

実は、この6年間で上越・北陸新幹線の通勤輸送の考え方は変化しています。2015年当時は、通勤・通学輸送を行うのはあくまでE4系が主体で、E2系やE7系を使用する「あさま」「とき」は、日中と同じ4〜5両しか自由席を設けていませんでした。

一方、E4系引退後のダイヤでは、「あさま」も指定席を1両だけとするなど自由席主体の編成とし、「かがやき」「はくたか」を除くすべての列車で通勤・通学輸送に対応しています。

また、この朝2時間で約1万席という供給量は、現在の上越・北陸新幹線における通勤・通学輸送の需要を十分に満たしていると言えます。

表3は、2015年度と2019年度の、上越新幹線熊谷〜浦佐間及び北陸新幹線安中榛名〜長野間の新幹線定期券による1日平均乗車数です。これらの駅から乗車した人のすべてが朝7時〜8時台に東京方面への列車を利用するとは限りません。例えば、長野や高崎、長岡へ通勤する人もいますし、もっと遅い時間帯に利用する人もいるでしょう。そう考えると、朝のピーク時間帯に約1万300席という供給量は十分需要を満たしていると言えます。

また、現在はコロナ禍によって大幅に利用者が減っており、今後はテレワークの普及によって毎日新幹線通勤を行う人は少しずつ減っていくものと予想されます。

上越・北陸新幹線の新幹線定期券による1日平均乗車数(東京または大宮までの1か月の定期代が、通勤手当の全額非課税対象となる15万円以下の区間について集計)
上越・北陸新幹線の新幹線定期券による1日平均乗車数(東京または大宮までの1か月の定期代が、通勤手当の全額非課税対象となる15万円以下の区間について集計)

こうした状況から、12両編成普通車829席のE7系に統一していけば、わざわざ新型2階建て新幹線を開発しなくても、ほとんどの人が着席しての新幹線通勤が可能であると考えられます。

車窓風景を楽しみたい旅行者にとって、2階建て新幹線が消えていくことはとても残念なことです。しばらくは、新しい2階建て新幹線が登場する可能性は低そうですが、全くゼロではありません。例えばリニア中央新幹線が開業して東海道新幹線に余裕が生まれると、シニア層やファミリー層を取り込むためにサービス重視の2階建て新幹線が復活する、ということもあるかもしれません。

2階建て新幹線が、いつかまた復活することを期待したいものですね。E4系、本当にお疲れさまでした。

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