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東急の「幸福の招き猫電車」 再登場の背景とは 

2019年5月31日(金) 鉄道コムスタッフ 冨田行一

東京急行電鉄の軌道線として、東京都世田谷区内を走る世田谷線。三軒茶屋~下高井戸間の約5キロを結んでいます。

その世田谷線を走るのは、300系電車。2両編成10本が在籍し、そのうちの1本が「幸福の招き猫電車」として運行中です。

今回の幸福の招き猫電車は2代目。初代は2017年9月から2018年10月までの1年余り運転されました。

再度登場することになった幸福の招き猫電車。その概要とともに、復活の背景について紹介します。

復活した「幸福の招き猫電車」
復活した「幸福の招き猫電車」

幸福の招き猫電車、2代目登場

幸福の招き猫電車は、世田谷線宮の坂駅付近にある豪徳寺ゆかりの「招き猫」をモチーフにした車両で、300系308編成が使われています。外観で目をひくのは、先頭部の猫顔、側面の招き猫ラッピング。車内も招き猫の趣向が凝らされ、編成全体が「見て、乗って楽しめる」デザインになっています。吊り革はすべて「招きポーズ」。床面には、猫の足跡が施されていて、窓の一部にも招き猫がデザインされています。

2代目となる幸福の招き猫電車は、現在の路線である「世田谷線」がスタートしてまる50年という節目を記念して登場しました。世田谷線は、玉川電気鉄道の支線(下高井戸線)が前身。1969年5月10日をもって、玉川電気鉄道玉川線(渋谷~玉川間)などが廃止される一方で、支線の方を独立する形で存続させたのが世田谷線です。そのスタートは、同年5月11日。2019年で世田谷線開業50周年を迎え、翌日の5月12日に、幸福の招き猫電車が復活の運びとなりました。初代も好評でしたが、初代デザインを一部変更しての再登場。運転終了時期は未定とのことです。

復活初日の5月12日は、7時26分から20時30分まで半日以上運転。駅や沿道では、カメラを向ける人の姿が多く見られたほか、招き猫電車が来るのを待って乗り込む乗客などで車内もにぎわいを見せました。

初代にはなかった猫耳(先頭部上部)が2代目では追加。より「猫感」を出したということです
初代にはなかった猫耳(先頭部上部)が2代目では追加。より「猫感」を出したということです
車内の吊り革はすべて招き仕様です
車内の吊り革はすべて招き仕様です
床面には猫の足跡がデザインされています
床面には猫の足跡がデザインされています
モデルとなった豪徳寺の招き猫。境内には、招福観音を祀る招福殿があり、その脇にある棚を中心に数多くの招き猫が奉納されています(読者提供)
モデルとなった豪徳寺の招き猫。境内には、招福観音を祀る招福殿があり、その脇にある棚を中心に数多くの招き猫が奉納されています(読者提供)
招福殿(右)と招き猫。当地の2代目藩主だった井伊直孝が鷹狩りをしていた際、豪徳寺住職が飼っていた猫「たま」の招きにより、落雷被害を免れたという伝説が招き猫の発祥とされています(読者提供)
招福殿(右)と招き猫。当地の2代目藩主だった井伊直孝が鷹狩りをしていた際、豪徳寺住職が飼っていた猫「たま」の招きにより、落雷被害を免れたという伝説が招き猫の発祥とされています(読者提供)
「幸福の招き猫電車」を紹介するパネル展示。左は、かつての車両(デハ70・80形)に取り付けられていた前照灯(「世田谷線にのって展」会場にて)
「幸福の招き猫電車」を紹介するパネル展示。左は、かつての車両(デハ70・80形)に取り付けられていた前照灯(「世田谷線にのって展」会場にて)

世田谷線50周年を記念して

世田谷線50周年記念企画は、「幸福の招き猫電車」のほかにも行われました。記念日にあたる5月11日と、その翌日の12日には、「世田谷線フェス」が沿線各所で開催。上町車庫では、子ども向けの乗務員体験などが開かれ、体験した車両の前で記念撮影する親子連れの姿が見られました。三軒茶屋駅前での「世田谷線沿線マルシェ」では、世田谷線グッズなどのブース出店もありました。

また、同イベント開催にあわせ、1日乗車券「世田谷線散策きっぷ」のリストバンドタイプの発売もありました。当日有効のリストバンドの提示で、イベント会場や協力店舗などで、割引やノベルティなどの特典が受けられるという設定もあり、記念企画ならではの取り組みとなりました。

世田谷線三軒茶屋駅に隣接するキャロットタワーでは、3階のギャラリーで「世田谷線にのって展」が、記念企画の一環として開催。4月27日~5月26日の1か月間、会期中無休で開かれ、世田谷線の年表、沿線の見どころマップ、引退車両の部品などが展示されました。「旧型電車最後の日」「消え行く玉電」と題する映像の放映もありました。

「世田谷線にのって展」会場。前照灯やブレーキ弁などの部品のほか、見どころ紹介を兼ねた沿線マップなどが展示されました
「世田谷線にのって展」会場。前照灯やブレーキ弁などの部品のほか、見どころ紹介を兼ねた沿線マップなどが展示されました
リストバンド型1日乗車券(左)と、世田谷線フェスのパンフレット(右)
リストバンド型1日乗車券(左)と、世田谷線フェスのパンフレット(右)
リストバンドの装着例
リストバンドの装着例
運転体験などで使われた300系310編成。先頭部には「世田谷線フェス」のステッカーが貼られていました
運転体験などで使われた300系310編成。先頭部には「世田谷線フェス」のステッカーが貼られていました
記念撮影の様子。制帽着用での撮影もでき、人気でした
記念撮影の様子。制帽着用での撮影もでき、人気でした

世田谷線の特徴、車両など

東京都内を走る軌道線の一つ、東急世田谷線。全長5キロ、駅数10の短小路線ですが、1日の平均乗車人数は5万人を越え、地域の足として確固とした役割を担っています。

世田谷線としての半世紀の歴史の中で走った車両は、デハ70形、デハ80形、デハ150形があります。そのうちデハ150形の最後の編成が営業運転を終えたのが2001年2月でした。旧型車両(当時)が退いたのと引き換えに、1999年から順次導入されていたデハ300系への統一が図られ、ホームの高さを車両床面にあわせることも可能に。そのためのホームのかさ上げ工事は2月10日の終電後に一斉に行われ、同11日の始発前に全駅で完工しました。車両とホームとの段差が解消され、今日に至ります。

若林駅。ホームに着目すると、2層構造になっているのがわかります。下の層がかつてのホーム。40センチかさ上げされ、現ホームの形になりました
若林駅。ホームに着目すると、2層構造になっているのがわかります。下の層がかつてのホーム。40センチかさ上げされ、現ホームの形になりました

世田谷線は、道路と併用する区間はなく、専用軌道を走ります。独特な架線方式、信号機による踏切など、設備面での見どころのほか、かつての車両が保存されているスポットもあり、鉄道ファンが楽しめる要素を持った路線でもあります。車両のカラーバリエーションもまた注目ポイントと言えるでしょう。

環七通りと交差する若林踏切。警報機や遮断機はなく、信号機が踏切に代わる役を担っています。写真は、道路の信号が赤、列車の信号が青の状態での一枚
環七通りと交差する若林踏切。警報機や遮断機はなく、信号機が踏切に代わる役を担っています。写真は、道路の信号が赤、列車の信号が青の状態での一枚
世田谷線の架線方式は「直接吊架式」。電気をとるための「トロリ線」は、直交する線(スパン線ビーム)が支える構造になっています。トロリ線をレールにたとえると、吊架線が枕木のような形です
世田谷線の架線方式は「直接吊架式」。電気をとるための「トロリ線」は、直交する線(スパン線ビーム)が支える構造になっています。トロリ線をレールにたとえると、吊架線が枕木のような形です
上町~世田谷間を行き来する303編成(左)、304編成(右)。直線区間ですが、軌道法の規定で、最高時速は40キロに制限されています
上町~世田谷間を行き来する303編成(左)、304編成(右)。直線区間ですが、軌道法の規定で、最高時速は40キロに制限されています
宮の坂駅に隣接する宮坂区民センターの敷地に留置されている「江ノ電601号」(元デハ80形)。1970年に江ノ島鎌倉観光(当時)に譲渡されましたが、同線での運転終了とともに1990年に里帰りしました
宮の坂駅に隣接する宮坂区民センターの敷地に留置されている「江ノ電601号」(元デハ80形)。1970年に江ノ島鎌倉観光(当時)に譲渡されましたが、同線での運転終了とともに1990年に里帰りしました
30年前(1989年)の下高井戸駅とデハ70形。今やすっかり過去の車両となりました
30年前(1989年)の下高井戸駅とデハ70形。今やすっかり過去の車両となりました

50年は大きな節目であるとともに、一つの通過点とも言えます。100年、200年と歴史を刻み続けてほしいと思います。

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