電車を走らせるだけでは生き残れない 各社が取り組む新規事業創出の動き

2019年4月22日(月) CNET Japan 編集部 西中悠基

新規事業の創出が進められている昨今。鉄道事業者においても、これまでにない事業領域へと踏み出す事業者が増えています。

西武ホールディングス(西武HD)では、既存事業領域を越えた成長の実現を目指し、2017年に新規事業分野を創出する専門部署「西武ラボ」を新設。この西武ラボが中心となり、2019年から事業創造プログラム「SWING(スウィング)」がスタートしています。

SWINGでアイデアが選ばれた応募者ら
SWINGでアイデアが選ばれた応募者ら

3月に開催された第1弾の事業化検討案発表イベントでは、133案の応募の中から選出した10案を発表。文化級の建築物をリノベーションして宿泊施設とするアイデアや、沿線の空き家を利活用するといった西武グループの事業領域を活かしたものから、流通過程の中で廃棄されている野菜や果物をスムージーとして販売するアイデア、さらには西武池袋線や新宿線の直上に高架線を設置し、サイクリングやランニング専用の道路として新しい移動スタイルの創出を目指すという、ユニークなものまでが選ばれています。

SWINGで選ばれた案のポスター。「あたらしいしき」をテーマに、多彩なアイデアが集まりました
SWINGで選ばれた案のポスター。「あたらしいしき」をテーマに、多彩なアイデアが集まりました

2004年に発覚した有価証券報告書の虚偽報告事件を発端として、経営が不安定となった過去を持つ西武グループ。2006年以降は経営基盤の改善に取り組み、2014年度には東証一部に再上場、業績も急成長を遂げました。西武HDの中期経営計画では、2018年度から2020年度の3か年度を「収穫期・開拓期」と位置付け、新たな事業分野・領域への拡大を加速化することを目指しています。

3月にデビューした西武鉄道の新型特急車両、001系「Laview」では、車両のデザインコンセプトの1つに「新しい価値を創造し、ただの移動手段ではなく、目的地となる特急」というものがあります。新型特急車両からアクセラレータプログラムまで、さまざまな施策を進める西武HD。西武鉄道の掲げるコーポレートメッセージ「あれも、これも、かなう。西武鉄道」の実現に向け、従前の価値観にとらわれることのない、多方面からの取り組みが実行されています。

西武鉄道の新型特急車両、001系「Laview」
西武鉄道の新型特急車両、001系「Laview」

関東私鉄ではこの他にも、東急グループが鉄道会社で初めてのアクセラレートプログラム「東急アクセラレートプログラム」を2015年度から展開。京急グループは、2017年度から「KEIKYU ACCELERATOR PROGRAM」を始動し、新規事業の創出に向けて取り組んでいます。

相鉄グループも2017年度以降、東京メトロも2016年度以降、それぞれアクセラレートプログラムを展開しています。小田急グループでは社内からアイデアを募る制度「Odakyu Innovation Challenge “climbers”」を2018年度から開始しているほか、京王電鉄も沿線大学と共同で新会社を設立し、沿線価値の向上にさまざまなアプローチから取り組んでいます。

その他エリアの事業者でも、西日本鉄道がオープンイノベーションプログラム「西鉄Co+Lab」を開催したほか、阪急阪神ホールディングスが投資ファンドを、近鉄グループがコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を設立し、各グループの事業領域とのシナジーを狙っています。

この新規事業創出に向けた取り組みは、JRグループでも進められています。

JR東日本は、2018年にJR東日本スタートアップを設立。2017年からJR東日本が進めている「JR東日本スタートアッププログラム」を引き継ぎ、スタートアップ企業との連携しつつ、レジがいらない無人コンビニのような新規事業の創出に取り組んでいます。また、2019年からはJR西日本イノベーションズやJR九州と連携し、3社共同で地域活性化に向けたビジネスアイデアを募集しています。

JR東日本スタートアップが2018年に実施した、無人店舗の実証実験
JR東日本スタートアップが2018年に実施した、無人店舗の実証実験

ある企業と他の企業などが連携し、新規事業の創出を目指す「オープンイノベーション」。この取り組みなどを用い、事業をアクセラレート(加速)する「アクセラレートプログラム」を展開する鉄道事業者が増える理由とは、どこにあるのでしょうか。

京浜急行電鉄で新規事業企画室部長を務める沼田英治さんは、2018年11月のKEIKYU ACCELERATOR PROGRAM第2期開始時に開いた記者会見において、「生産年齢人口の減少や高齢化の進行、労働力不足の深刻化など、事業上の課題に直面しているため」と背景を説明しました。特に京急沿線は同業他社の各路線沿線と比較して、高齢化が早い段階で見込まれる地域だということです。

他エリアより速い高齢化の進行が課題となっている京急沿線
他エリアより速い高齢化の進行が課題となっている京急沿線

これまでの大手私鉄の事業戦略は、郊外にベッドタウンを建設し、住宅地の周辺に商業施設などの付加価値を作り、沿線住民を増やすことで、鉄道事業の収入に繋げるというものでした。しかしながら沼田さんによると、このビジネスモデルは昨今の老齢化や人口減少の進行により限界を迎えており、これからはエリア間で競争が起こるといいます。これに対して、住む魅力や訪れる魅力、訪れる際の利便性をわかりやすく伝え、沿線エリアで得られる魅力をどのように有機的に連携させて展開するかが重要になるとしています。

住宅地や商業施設を建設し、交通サービスを提供する従来のビジネスモデルは限界を迎えつつあります
住宅地や商業施設を建設し、交通サービスを提供する従来のビジネスモデルは限界を迎えつつあります

さらに沼田さんは、第4次産業革命によるデジタル化や、業種の枠を超えるイノベーションの進展などの外部環境の変化なども含め、社会構造が大きく変化していることを指摘しました。事業全般において付加価値を高めて生産性を向上させる必要があるほか、事業展開に柔軟な対応が求められます。そのためには、これまで京急グループと関連の無かった外部企業との連携が必要だということです。

京急グループでは、沿線住民の高齢化のほか、羽田空港の発着枠拡大による訪日外国人の急増、高輪ゲートウェイ駅付近を始めとする品川地区の大規模再開発など、これまでに経験のない大規模プロジェクトの遂行といった課題があります。この課題を成長の好機と捉え、ベンチャーやスタートアップ企業、投資家のほか、異業種の企業や大学、自治体などとともに、オープンイノベーションによって、今後の事業を進めていく狙いです。

京急の沼田さんによる「これまでのビジネスが限界を迎えている」という言葉の通り、ただ電車を走らせていれば事業として成り立つ、という時代は終わりました。オープンイノベーションではありませんが、日光鬼怒川エリアの観光需要創出に向け、東武鉄道とJR東日本が連携して直通特急列車を走らせるなど、従前では考えられなかったような取り組みが鉄道事業者へ求められる時代へと変化しています。

少子高齢化や人口減少、価値観の多様化といった、課題が多く現出する現在。厳しい将来も安定した事業を継続するために、各社の取り組みが進められています。

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