豪華な設備を持ち、周遊ツアーに使われる「クルーズ船」のように、鉄道業界でも世界各国で「クルーズトレイン」が運行されています。日本では2010年代に、JR九州の「ななつ星 in 九州」、JR東日本の「TRAIN SUITE 四季島」、JR西日本の「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」といった列車が登場。1泊2日以上の行程として、各列車に乗車するツアーが販売されています。

その1人あたりのお値段は、通常行程に限れば、最も安いもので30万円台後半(瑞風「ロイヤルツイン」1泊2日コース)、最高額では200万円台(ななつ星「DXスイートA」3泊4日コース・1部屋1人利用)と、手軽に乗れる列車ではありません。もちろん設備はハイレベルで、中にはバスタブを設置した個室も。ソフト面のサービスも充実しており、国内最高峰の豪華列車群といえます。

そんなクルーズトレインのうち、四季島、瑞風の2つでは、車両のシステムでもハイレベルなものが使われています。
瑞風の走行システムは「ハイブリッド式」。車両に搭載したエンジンで発電できるほか、電気を蓄えるバッテリーを搭載しており、双方からの電気を組み合わせて走行しています。この仕組み自体は、JR東日本のHB-E210系、JR東海のHC85系などでも使われているもの。ですが、瑞風では豪華クルーズトレインのため、シャワー用の水タンクなど、一般の車両以上に多くの設備を搭載する必要があり、走行機器の設置スペースに制限がありました。そこで瑞風では、あえてインバータへの入力電圧を通常よりも低くすることで、機器の小型化を実現し、搭載スペースの問題を解決しています。
四季島では、電車とディーゼルカー双方の機能を持った「EDC方式」を採用。電化区間ではパンタグラフから集電した電気で、非電化区間では両先頭車に搭載した発電機で発電した電気で走行します。これにより、直流電化区間、交流電化区間(2万ボルト50ヘルツ・60ヘルツおよび2万5000ボルト50ヘルツ対応)、非電化区間で走行が可能となっています。EDC方式は、海外ではフランスやイギリスで採用例がありますが、日本では四季島だけの存在。保安装置や重量、車両寸法といった制約を無視し、単に架線設備の観点だけで見れば、理論上は国内のJR在来線全てを走行できる車両です。
このような高度なシステムが導入された背景には、各車両に最適なシステムを用いたということもあります。加えて、豪華列車という大量の車両予算を投入できるもので、新規要素技術に挑戦しようという向きもあったのでは、と筆者は考えます。実際、瑞風の場合は、将来の電気式気動車の開発(後にDEC700・DEC741として実現)につながるような設計としたのだとか。

自動車業界では、自動運転などの先進的なシステムは、高級車から採用が始まり、大衆車へと順次広がっていく流れが多く見られます。四季島や瑞風の技術も、今後は一般列車用の車両に広まっていくのでしょうか。