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実は「JR特急車唯一」の立ち位置? JR東日本の交直両用特急車「E653系」

2025年6月17日(火) 鉄道コムスタッフ 西中悠基

常磐線の特急「フレッシュひたち」用に開発され、現在は新潟エリアの特急「いなほ」「しらゆき」などで活躍しているE653系。この特急型電車には、他のJRの一般特急型電車にはない、唯一の特徴があります。JR在来線の「3つの電源方式」に対応しているという点です。

「フレッシュひたち」で活躍していたころのE653系
「フレッシュひたち」で活躍していたころのE653系

日本のJR在来線電化区間では、直流1500ボルト、交流2万ボルト50ヘルツ・同60ヘルツの3つの電源方式が使われています。周波数の違いは、国鉄による導入方式の違いによるものではなく、明治期に導入された発電機の製造国が東西で異なっていたことに由来するのですが、いずれにせよ、同じ交流電化区間であっても、50ヘルツ区間と60ヘルツ区間にまたがって走行する場合には、車両側で双方に対応する必要があります。

E653系がデビューした1997年10月時点における、関東甲信越・東海・近畿地方のJR在来線および一部第三セクター路線の電化区分(国土地理院「地理院地図Vector」の淡色地図に加筆し作成)
E653系がデビューした1997年10月時点における、関東甲信越・東海・近畿地方のJR在来線および一部第三セクター路線の電化区分(国土地理院「地理院地図Vector」の淡色地図に加筆し作成)

ただ、交流50ヘルツと60ヘルツが直接接続されている場所は、日本の在来線には存在せず(新幹線には3か所存在)、該当する線区どうしを直通運転しないのであれば、片方のみの対応でも問題ありません。

国鉄時代には、50ヘルツ区間(羽越本線など)と60ヘルツ区間(北陸本線)を直通する「日本海縦貫線」用の車両(485系や457系、EF81形など)が、両周波数に対応する交直両用車両として開発されました。また、基本的には50ヘルツ区間または60ヘルツ区間のみを走る路線用に製造された車両でも、将来的な転属を考慮して、両周波数に対応して製造されたものがありました。

その後、国鉄分割民営化でJR各社が発足すると、全国規模の大規模転属を考慮する必要がなくなったため、交直両用電車で両周波数に対応する必要性はなくなりました。JR時代に製造された交直両用特急型電車では、JR東日本の651系とE657系は交流は50ヘルツのみ、JR西日本の681系と683系は60ヘルツのみに対応。一般型電車でも、E501系とE531系は50ヘルツのみ、521系は60ヘルツのみの対応です。

一方で、E653系は、直流1500ボルトのほか、交流2万ボルト50ヘルツ・60ヘルツの3つの電源方式に対応しています。これは、485系の将来的な置き換えを視野に入れたため。当時、JR東日本の485系は、北陸本線に乗り入れる特急「北越」「はくたか」の運用があったほか、団体臨時列車などで関西方面に乗り入れることもありました。このような汎用性が高い車両を将来的に置き換えられるよう、E653系も運用の自由度が高い車両として開発されたのです。

羽越本線の特急「いなほ」で走る485系。同列車の485系は、後にE653系で置き換えられています
羽越本線の特急「いなほ」で走る485系。同列車の485系は、後にE653系で置き換えられています

E653系以外にも、JR世代の車両(試作車や試験車を除く)では、JR貨物のEH500形とEF510形、そしてJR東日本のE655系「和」(なごみ)、E001形「TRAIN SUITE 四季島」が、直流1500ボルト、交流2万ボルト50ヘルツ・60ヘルツの3つに対応(四季島は交流2万5000ボルト50ヘルツにも対応)した存在です。ただ、E655系はお召列車や団体臨時列車で使われる車両、四季島はクルーズトレインと、ともに特殊な立ち位置。EH500形とEF510形は電気機関車のため、一般旅客が乗車できる車両ではありません。一般特急用電車として3つの電化方式に対応している車両は、JRグループ全社を見回してもE653系のみの存在です。

一度新潟支社に転属した後、波動用車両として水戸支社に復帰した、E653系K70編成。首都圏を中心とした臨時列車で活躍しています
一度新潟支社に転属した後、波動用車両として水戸支社に復帰した、E653系K70編成。首都圏を中心とした臨時列車で活躍しています

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