近畿日本鉄道(近鉄)が、南大阪線、吉野線で定期運用の特急列車を初めて走らせたのは、1965年。今年でちょうど60年の節目を迎えます。現在、両線を走る特急用車両の形式数は、2025年現在で6種類。なかには、「さくらライナー」「青の交響曲(シンフォニー)」といった個別の名称を持つ車両も存在します。
そんな仲間たちの中で生きる最古参車両が、16000系。形式としてのデビューは、南大阪線と吉野線で特急列車が走りだした1965年。この60年間、同形式は一貫して特急列車で走り続けており、両線の特急の歴史を、時代を超えて紡ぎ続けてきたのです。特急型車両は寿命が短かったり、後継車両の登場で格下げされることも多いのですが、16000系は60年も特急専用として君臨する、全国的に見ても非常に珍しい存在。現在、16000系は、車体も床下機器類も完全な形で残る、日本一古い現役の特急型車両となっています。

16000系は、1977年までに9本が製造されました。基本的に2両編成を組みますが、第8編成の1本だけは4両編成で製造されています。1985年以降には更新工事が実施されており、化粧板や座席モケットなどが交換されたほか、一部の編成にはデッキが新設されました。車体の塗装は他の汎用特急車両と同じオレンジとダークブルーのツートンでしたが、2016年以降、オレンジと白をベースとした新しいものに変更されています。

1997年には、16000系初の廃車が発生。その後も新型車両への置き換えは進められたものの、そのペースは遅く、21世紀に入った後も南大阪線、吉野線を走る特急車両として、主力の一端を担い続けてきました。しかし、さすがに寄る年波には勝てなくなったのか、近年は廃車が進行。現在はY09編成の2両編成1本を残すのみとなりました。
Y09編成は1977年の製造で、16000系の「末っ子」と呼べる存在。2025年現在の稼働年数は約48年で、車両として「還暦」を迎えたわけではありません。とはいえ、半世紀近く特急専用で現役を貫いていることは、特筆に値するでしょう。
たった2両が残るという、「風前の灯火」のような状態となったいま、運用のスリム化などで必要な車両の数を削減すれば、代替となる新車が入らなくても、運用を外されるかもしれません。16000系が完全に引退する日は、そう遠くないものと思われます。
最後に少し余談を。16000系のうち、初期に廃車された車両の一部は、大井川鐡道に譲渡されました。こちらも廃車が出ているものの、現在も1本が現役で、大井川本線の一般列車で運用されています。外観の大きな変化はなく、近鉄では見られなくなった汎用特急車両の旧塗装も、ここでは現役。ある意味では、本家以上に「近鉄特急らしい車両」であるといえます。
