蒸気機関車(SL)では、ボイラーが車体長の大部分を占めています。そのボイラーの最前部、つまり機関車の「顔」の横には、左右に板を装着したSLがよく見られます。

この板は、「除煙板」というもの。文字通り、煙を除去するための装備です。英語の名称から「デフレクター」、あるいはこれを略した「デフ」と呼ばれることもあります。

SLは、ボイラー上の煙突から煙を吐き出しながら走りますが、特にトンネルなどでは、煙が車体の周りにまとわりついてしまうことがあります。除煙板は、走行時の空気の流れを導くことで、煙が流れるようにしており、煙による視界悪化を軽減する効果を狙っていました。
除煙板は、国鉄では1920~1930年代に本格採用され、C57形やD51形など、今も残るSLには欠かせないアクセントとなりました。一方で、低速走行時にはあまり効果がなく、運転席からの左右視界の悪化や、保守の邪魔になるといった課題もあったよう。8620形やC10形といった標準装備になる前の古いSLはもちろん装備せずに落成していますが(後付けされた車両も一部あり)、標準装備の時代にあっても取り外した車両も存在しました。

さらに、国鉄蒸気機関車の除煙板にはさまざまな種類がありました。一般的なものは上から下までつながっている形ですが、中には下半分が切り取られたものも。これは施行した工場などで形に違いがあり、それぞれに愛称がつけられていました。たとえば、九州でよく見られた小倉工場(現在のJR九州小倉総合車両センター)のタイプでは、小倉工場を管轄していた門司鉄道管理局とデフを組み合わせて「門鉄デフ」あるいは「門デフ」、後藤工場(現在のJR西日本後藤総合車両所)で施工されたタイプは「後工デフ」などと呼ばれています。

2025年5月現在、本線上で動態保存運転を実施しているSLのうち、除煙板を装着していないのは、真岡鐵道のC12形66号機、大井川鐵道のC10形8号機の2両のみ。その他のSLは、一般的な大型の除煙板を装着しています。ただし、JR東日本のD51形498号機、秩父鉄道のC58形363号機など一部のSLは、イベントなどで一時的に門デフほか別タイプの除煙板を装着して運転されることもあります。