東武鉄道が3月8日に営業運転を開始する、野田線(東武アーバンパークライン)向けの新型車両「80000系」。この車両では、東武のある伝統から外れた部分がありました。それは、モーター搭載車(電動車)と非搭載車(付随車)の比率が1対1ではなくなったことです。

「MT比」とも呼ばれるこの比率は、たとえば10両編成中6両が電動車の場合は「3対2」となるように、編成内の車両の割合に応じて数字で表されます。
東武の一般型車両では、1963年に登場した8000系以来、MT比は1対1とするのが標準でした。電動車を増やせば、車両の性能は向上するのですが、一方で製造コストや整備コストも上昇します。そのため、1対1のMT比は、経済性に配慮したものとして、東武のほか、さまざまな鉄道会社が採用していました。
東武では、8000系以降の一般型車両でMT比が1対1でないのは、地下鉄直通車両で性能確保が必要な9000系と20000系(日光・宇都宮方面に転用された20400型系列を除く)、組成の都合でMT比が2対1となるように8000系から改造された800型・850型、そして今回の80000系のみです。なお、70000系も全車が電動車となっていますが、車輪単位で見ると、MT比は1対1となっています。

このように、東武の地上線用一般型新造車両では、1対1のMT比が8000系より堅持されてきたのですが、今回の80000系では2対3となり、ついに伝統が崩れた形になります。また、東武でMT比が1対1ではなかった車両も、その構成はモーター車の方が多め。モーター車の方が少ない比率の形式は、東武では80000系が初となります。
東武によると、このMT比の変更は、「省エネ性能とメンテナンス性を考慮した最適なMT構成を検討した結果」だといいます。
80000系のコンセプトは、「人と地球によりそう電車」。環境面では従来車両以上の省エネ性能を追求した車両となっており、その一環として、私鉄の本格搭載例としては初となる、「同期リラクタンスモーター」(SynRM)を採用した車両推進システム「SynTRACS」が搭載されています。
SynRMは、誘導電動機(従来の一般的なVVVFインバータ制御車で使われているモーター)よりも高効率化が実現できるモーターです。鉄道用の開発は三菱電機が先行しており、2021年以降に東京メトロ13000系を用いた実証実験に成功。この際使われたSynRMは、誘導電動機を搭載した南北線9000系B修繕車のモーターと比較すると、出力は11パーセント増、重量は7.1パーセント減を実現しています。また、東武500系「リバティ」などが採用している永久磁石同期モーター(PMSM)と比較すると、レアアースである永久磁石が不要となり、回路もシンプルであることから、省メンテナンス化が実現できるといいます。
80000系のモーター出力は、1基あたり250kW。60000系では1基あたり165kWだったため、約50パーセントの出力増を実現したことになります。80000系と60000系では電動車1両につきモーターを4基搭載していますが、1編成あたりの出力を比較すると、電動車3両の60000系が1980kWのところ、80000系は2000kWと、電動車2両でほぼ同じ出力を達成できています。つまり、80000系ではモーターが強力になったため、従来より電動車の比率が低い組成でも、従来と同じスペックを実現できたというわけです。

なお、モーター出力の増加は、回生ブレーキ領域の拡大にも貢献。これにより、消費電力量の低減を実現しているといいます。