2025年1月下旬から2月上旬にかけて、中央快速線で使用されていた209系1000番台が、長野総合車両センターへ送られました。この車両が中央快速線に戻ってくることは、もうないと思われます。

209系1000番台は、1999年12月、常磐緩行線に投入された車両。増発に必要な編成のみの製造だったため、当時から10両編成2本という少数派の存在でした。その後、運用の見直しにより車両の所要数に余裕ができたため、209系1000番台は2018年に常磐緩行線での運用を終了。20年にも満たない短期間で姿を消すことになる……と思われました。

一方その頃、中央快速線では、グリーン車の導入に向けた準備が進められていました。これにあたり、既存の車両(E233系0番台)にグリーン車を連結するための改造が必要となりますが、その改造工事には時間がかかるため、作業中はしばらくの間、車両を動かすことができません。これにより発生する車両不足を避けるため、予備車の確保が必要でした。
そこで、運用を失った209系1000番台を中央快速線に転属させ、同線のグリーン車の準備が整うまで、車両不足を補う緊急要員として使われることになったのです。同車からすれば、まさに「捨てる神あれば拾う神あり」といったところだったでしょう。209系1000番台はラインカラーをオレンジに改め、2019年、中央快速線での運用を開始しました。そして、E233系の改造が進んだ2024年、209系1000番台は運用を離脱。しばらく車両基地にとどまったのち、長野総合車両センターへ送られました。

中央快速線での運用末期、209系1000番台の最大の特徴は、「音」だったと筆者は思っています。
209系(の試作車901系)は、1992年に京浜東北線でデビュー。JR東日本では、207系900番台に続くVVVFインバータ制御車でした。「ウォーン、ウォーン」と転調を繰り返すその起動音は、SC41形というVVVFインバータ制御装置が奏でるもので、同車の特徴のひとつでした。この音は車両の更新工事などとともに、ひとつ、またひとつと消えていき、気づけば中央快速線の209系1000番台が、最後の存在となっていました。同車の運用離脱は、209系の初期の音が消える、ひとつの節目でもあったといえます。
現在30代の筆者は、幼少期がVVVFインバータ制御が普及しだした時期と重なります。当時、209系や東急9000系などが奏でる独特の音を聞いて、「これが未来の電車の音なんだ!」と感動したことを、いまも鮮明に覚えています。いつの間にか大人になってしまい、「未来の電車の音」も、「どこか懐かしい音」に。どんなものにも永遠はありませんが、筆者には、子ども時代の思い出が首都圏を去る209系1000番台に乗って消えていく、そんな気がしてなりませんでした。