地方の私鉄が新しい車両を導入する際は、新造車両ではなく、他の会社から中古の車両を買うことはごく普通のことです。その際、レール幅や架線電圧などの仕様が異なれば、元の会社の仕様から改造することも珍しくありません。
そのような「改造中古車」は、手が加えられる範囲が大きなものから小さなものまで、さまざまなものが存在しています。その中でも、近年の車両では異様なレベルで改造されたのが、近江鉄道が導入した220形です。

近江鉄道220形は、1991年から1996年にかけて導入された車両。正確には中古車ではなく、近江鉄道が自社の車両基地で製造した「新車」です。しかしその実態は、自社の旧型車両の台枠に、他社から譲受した車体を載せ、走行機器を組み合わせたというものでした。
台枠は、鉄道車両の土台となるもの。昔の車両と最近の車両では設計思想が変わっていますが、台枠に車体を載せ、また床下機器類を吊るという考え自体は、今も昔も同じです。特に昔の車両の台枠は頑丈に作られていたため、220形のように新造車両に流用されることもありました。
220形では、自社で使用していた旧型車両の台枠が流用されています。その種車の出自はさまざまで、たとえばトップナンバーの221号車は、小田急電鉄(落成時は東急(大東急)時代)の1600形デハ1605号として落成し、後に近江鉄道に譲渡された車両でした。
その台枠に、近江鉄道では西武から譲受した701系の車体を載せ……たのですが、701系は全長20メートル級の車体を持つのに対し、220形は17メートル級の車両。そのため、車体はそのまま流用したのではなく、まるで鉄道模型のように切り継ぎして使われました。ただし、先頭の「顔」は自社工場で製造しており、見た目は90年代の新型車両のようなデザインでした。

加えて、モーターも旧型車両のものを流用。制御方式は抵抗制御であるのはもちろんのこと、駆動方式は吊り掛け駆動が採用されました。一方、制動装置(ブレーキ装置)は新製されており、近江鉄道では当時採用例がなかった電磁直通ブレーキを飛び越え、新しい方式の電気指令式ブレーキが一足跳びに採用されています。
220形は、6両が「新製」され、利用者が少ない区間を中心に投入されました。約20年活躍した220形ですが、足回りは戦前製のものもあり、老朽化が進行。加えて1両編成で車体も短いため、混雑する時間帯の運用には不向きでした。そのため、220形は西武鉄道から2両編成の車両を導入して置き換えられることとなり、2015年に営業運転を終了。226号車のみが機関車代用として残されました。
220形のような寄せ集めた部材で「新製」した車両は、戦前には多く見られたようですが、近江鉄道のように近年(といっても約30年前ですが)このような手法で作られた車両は、非常に珍しいものでした。現在新製されている鉄道車両では、切り継ぎに不向きなステンレスまたはアルミ車体が増えており、制御機器も抵抗制御のように長持ちするものではなくなったため、今後似たような車両を作り上げるのは難しそうです。