鉄道の座席配置には、窓に背を向けた「ロングシート」と、進行方向を向いた「クロスシート」という、大きく2つのタイプが存在します。また、中長距離を走る普通列車用車両などでは、両者を組み合わせた「セミクロスシート」も存在します。

進行方向を向いたクロスシートは、長い距離を走る車両に多く採用されるため、「旅情を感じさせる」という意見がよく見られ、鉄道ファンには人気の座席です。しかし、首都圏のJR線では、クロスシートは減少傾向にあります。
かつて、東海道線などを走る「近郊型電車」では、クロスシート設置車両が一般的でした。しかし、国鉄時代には東海道線や常磐線で、ロングシートタイプの車両が登場。JR発足後にはロングシート車の割合がさらに増えました。現在の東海道線、宇都宮・高崎線、常磐線中距離電車では、クロスシートは編成中の一部車両のみの設置。横須賀・総武快速線では、2020年デビューのE235系1000番台ではグリーン車以外が全車ロングシートとなり、普通車のセミクロスシートが全廃されています。

中長距離を走る電車でもクロスシートが減っているのは、混雑対応のため。クロスシートは、ロングシートよりも車内空間の占有面積が大きく、混雑する路線への採用は不向きです。座席定員自体はロングシートよりクロスシートの方が多くなりますが、立ち客を含めた車両定員はロングシート車の方が多くなります。そのため、国鉄もJR東日本も、「近郊型電車=セミクロスシート」という従来の基本的な考えから脱却した、近郊型ロングシート車両の導入を続けてきました。
主要路線だけでなくローカル線でも、効率化などのために両数を減らす一方、その分の混雑を緩和するため、ロングシートを増やした車両を導入することがよく見られます。さらに、セミクロスシートからロングシートに改造した車両も、JR東日本やその他の会社で見られます。
なお、三大都市圏の主要路線のうち、JR東海の東海道本線、JR西日本のJR京都・神戸線(東海道本線)などでは、今もクロスシート車両が当たり前のように使われています。
三大都市圏の東海道本線における最混雑区間の混雑率(2023年度実績の1時間平均、国土交通省資料による)を比較すると、JR東日本(川崎→品川間、7:39~8:39)が151パーセントなのに対し、JR東海(熱田→名古屋間、7:48~8:47)が96パーセント、JR西日本の快速(茨木→新大阪間、7:40~8:40)が102パーセント(緩行線は東淀川→新大阪間で111パーセント)と、大きな差があります。JR東海は9割、JR西日本ではほぼ定員乗車という乗車率に対し、JR東日本では車両定員の1.5倍も乗っている状態です。そのような状況下では、ロングシート主体の座席配置となるのも致し方ないのかもしれません。
事業者名 | 区間 | 時間帯 | 編成& 運転本数 |
輸送力 | 輸送人員 | 混雑率 |
---|---|---|---|---|---|---|
JR東日本 | 川崎 →品川間 |
7:39~8:39 | 13両×17本 | 3万1348人 | 4万7400人 | 151% |
JR東海 | 熱田 →名古屋間 |
7:48~8:47 | 6.3両×15本 | 1万3160人 | 1万2630人 | 96% |
JR東海 | 枇杷島 →名古屋間 |
7:25~8:24 | 7.5両×15本 | 1万5194人 | 1万3625人 | 90% |
JR西日本 | 茨木 →新大阪間 |
7:40~8:40 | 12両×12本 | 1万9752人 | 2万200人 | 102% |
JR西日本 | 尼崎 →大阪間 |
7:30~8:30 | 11.8両×11本 | 1万7778人 | 1万6500人 | 93% |